1  ねぇ、知っちょる? 今うちの中学で流行っちょる恋のおまじない。あんね自分であみぐるみ編んで、 その中に好きな人のプリクラを入れるほ。あ、別にプリクラじゃのうてもええんやけどさ、大きさ ちょうどええやん? ちゅっても、彼一人で写っちょお写真なんかなかなか手に入らんけぇ、一緒に 写っちょる人は切り取ったり塗りつぶしたりしてさ。まあ、とにかく好きな人の写真をあみぐるみの 中に入れるんよ。そいでね最後にピンクか赤のリボンをおまじないを唱えながらあみぐるみの首に結ぶほ。 「恋の妖精さん、どうかあの人と私を結んでください」  って。  あとはそのあみぐるみをずーっと持ち歩けばええだけ。簡単じゃろ?  本気でそんなおまじないで両想いになれるとは思うちょらんのんじゃけど、みんながしようと気に なるし、仲良しの子が一緒に作ろって言うたら、やっぱ女の子やからやりとうなるやん。  そんなわけで今、あみぐるみ編み中なん。  一緒に編みよおふみかは、こまい頃からの幼なじみで今も仲良し。じゃけぇ、このおまじない しようって言うてきた時にはびっくりしてしもうた。だって、ふみかに好きな人がおるなんてうち 知らんかったんやもん。 「ほいで、ふみかは誰が好きなん?」  聞いてみるけどふみかは、えーって顔を赤くするばっかしで教えてくれん。 「そういうあみちゃんは、誰が好きなん?」  反対に聞かれて、こっちが困る。  うんそう。ふみかの好きな人を聞き出せんのんは、うちの好きな人も教えちょらんけぇ。別にね、 教えられんわけじゃないんやけど、なんか照れるやん?  ふみかもおんなしみたいで、なかなか教えてくれん。まあ、どっちかが教えればお互い教えあうん やろうけど。  まあ、そんなわけで今二人であみぐるみ編みよるんよ。  そいやけど元々うち不器用やし、ふみかは編み物したことあるもんじゃけぇぶち差ぁつけられちょる んよね。うちはまだ胴体になるところも出来ちょらんほに、ふみかはもうほとんど出来上がりよる。 「そういや、ふみか。もうそれ、プリクラ入っちょるん?」  写真は編みよる途中で入れんといけんって確か言いよったんやけど、ふみかが写真入れよるところ 見ちょらん。  聞いたらふみかはパッと顔を赤らめてえへへって笑うた。 「うん、もう入れた」  嬉しそうに自分のあみぐるみ持って、ふみかってば乙女〜。 「にしても、すごいね。プリクラよう手には入ったいね」  そう、このおまじないの一番の難関はやっぱぁ好きな人のプリクラを手に入れるとこじゃと思う。 好きな人がもともと友達やったらどねぇかなるんじゃろうけど、話しもしたことない人やったら他の 人に頼んでもろうたりケータイで隠し撮りしたりせんにゃいけんけぇ、みんな苦労しちょるみたい。 やけぇふみかが手際よくプリクラを手に入れとったんには正直びっくりやった。 「そういうあみちゃんこそ、もう持っとるん? プリクラ」  質問返されて、えへへ、と笑ってごまかしてしまう。 「うんまあ、どねぇかなるいね」  なんて言うてしもうたけど、本当はもう持っちょる。だってうちが好きなんは仲良しのタカキなんや もん。  タカキはうちとふみかの幼なじみで、しゃっちぃ三人で遊びよるん。もうほんと、ぶちこまい頃から 知っちょって、「あんたら三人、三つ子みたいに仲ええねぇ」って近所の人にもよう言われよった。  いつ頃からタカキが好きになったんって聞かれると、ちょお分からんのんやけど、タカキの笑っちょる 顔見ちょったらうちもぶち嬉しいんよ。その顔ずーっと見ちょりたい、うちだけにその笑顔見せちょって ほしいって思うんはやっぱ恋やろ?  わーっ。なんか自分でゆっちょってなんやけど、ぶち恥ずかしーっ。  と、とにかく、そんなわけで今がんばってあみぐるみ編み中なん。編み目ガタガタでも、想いだけは こもっちょおけぇ、いつかタカキとラブラブになれたらええほにって思うちょるんよ。    ふみかのあみぐるみが出来て、三日遅れてからうちのあみぐるみも出来あがった。ぶち時間かかった し、編み目もすごい事んなっちょおけど、不器用なうちにしては上出来! 気持ちだけは込めちょる けぇね。  そいで次の日、朝一番学校に行く途中でふみかにあみぐるみをこっそり見せちゃった。 「ふみかみたいに上手やないけど、まあまあ上手く出来たと思わん?」  多少編み目がおかしいんは、目ぇつぶって。ぱっと見かわいく出来ちょると思うんよ。 「うん、かわいい。うちもうささんにしたらよかったー」  にこにこ笑いながらふみかはうちのうさぎを見ちょる。  ちなみにふみかはクマのあみぐるみ。うちはウサギのあみぐるみにしたんよ。 「あれ、でもまだリボンつけちょらんの?」  気が付いたふみかが不思議そうに言うた。 「そうなんよ、聞いてぇね。買うちょったリボンお母さんが勝手に人にあげてしもうてさぁ」  思い出したらグラグラくる。昨日、出来た! あとはおまじない唱えてリボン巻くだけってウキウキ 机の上見たら買うて置いちょったはずのピンクのリボンが無くなっちょん。信じられん。お母さんに 聞いてみたら近所の子にあげたって言うんよ。ぶち腹が立つ。 「どう見たって新品で買うてきたって分かるやろ? そしたら使うけぇ買うたって普通分かると思わん?」  思い出して口をとんがらせながらふみかに同意を求める。 「きっとお母さん、そこまで見ちょらんかったんよ」  楽しそうにふみかがあはは、と笑うた。そんなふみかを見ちょったら、なんかうちも顔がほころんだ。 「うん。ほいでね、お母さんが悪かったいねって新しいリボン買うお金くれたんよ。やけぇ、今日帰りに 買いに行こうと思うとるんちゃ。ふみか、ついて来てくれん?」  いっつもの場所にタカキの姿が見えて、慌てて小声でふみかに頼む。さすがにタカキの前でこの話は 恥ずかしゅうて言えん。  ふみかもおんなしみたいで、ちっちゃい声で「うん、わかった」って言った。言ったほに。 「おまいら、なにコソコソ話しちょん」  こっちに気付いたタカキに、にこにこ笑いながらふみかが言うんちゃ。 「うん、ほら。おまじないのあみぐるみの話」 「え、ああ」  それを聞いたタカキが照れくさそうに目を反らすん。  ちゅーか、ふみか、あみぐるみの話タカキにしたん?  びっくりしてふみか見たら、照れくさそうに笑いよるん。 「おまじないの効果、すごいよ」  そう言うてちらっとタカキを見る。ほしたらタカキの顔がばぁって赤うなって、照れたんを隠す みたいに咳払いして。 「実はさ、俺ら付き合う事になったん。うるさいけぇ他の奴らには言わんけど、仲良しのお前には 報告せんとって」  真面目な顔してそう言うてから、ふみかの方を見たタカキの顔がデレって崩れた。ふみかもやっぱし 顔がゆるんぢょお。  なにそれ。  頭ん中真っ白んなった。ふみかもタカキが好きやったん? それで告って付き合うことになったん?  何かがぐるぐる頭ん中で回りよお。けど、頭ん中真っ白やけぇ何が回りよるんかも分からん。 分かるんはふみかもタカキの事が好きで、二人が付き合うことになったっちゅう事だけ。  目の前ではタカキとふみかがなんか色々話しよるんじゃけど、何を話しよるんか全然頭に入ってこん。 嬉しそうに幸せそうに二人でなんか話しよお。そんな二人にうちは必死に笑顔作って、適当に相づちを 打つんで精一杯じゃった。

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