初詣  ちらちらと粉雪の降る寒い朝。風邪をひかないように、でもおしゃれも忘れずにお出かけの用意。 「新年早々どこに行くんだ?」  あれこれとパタパタ準備をしていると、新年早々不機嫌そうにお兄ちゃんが顔を出す。 「どこって、初詣だよ」  元旦の朝に出かける用意をしてたら言わなくても分かるでしょ。  わたしの言葉にお兄ちゃんはますます不機嫌な顔になる。 「奴とか」 「……かるくんとだよ」  奴なんて言い方しないでって言いたいけど、かるくんの事まだ認めてないお兄ちゃんは、きっと名前で 呼んではくれない。 「分かってるのか? あいつは……」 「知ってるよ。分かってないのはお兄ちゃんの方だよ」  お兄ちゃんの言葉を遮り、言う。そう、分かってないのはお兄ちゃんの方。お兄ちゃんはまだ運命の 人に出逢えていないから。  わたしの言葉にお兄ちゃんは驚いて黙り込む。  ぱっと時計を見ると、とっくに出掛けていなきゃいけない時間。いけない。 「待ち合わせに遅れちゃうから、行くね」  そう告げてわたしは慌ててカバンを持ち、家を出た。  お兄ちゃんが心配してくれているのは分かってる。だけどわたしはお兄ちゃんよりもかるくんの方が 大切だ。だからたとえお兄ちゃんを悲しませるような事になても、かるくんを優先する。  ちらちらと降る粉雪。  鼻がツンと痛くなるような寒さの中、待ち合わせの駅で鼻を真っ赤にして待ってくれている、かるくん。 「ごめんなさい。寒かったでしょ?」  駆け寄るとかるくんは笑って首を振る。 「みっかの顔見たら寒さなんて吹き飛んだよ」  そう言いながらも寒そうに震えているかるくんの顔に手を当ててみる。 「うそつき。氷みたいじゃん」  可哀想な程冷たくなってる。わたし、そんなに遅れた?  待ち合わせの時間にはギリギリ間に合ってる。けどこの感じじゃあ、かるくんは随分前から待って いてくれたんだろう。 「嘘じゃないよ。みっかがここにいるだけで、あったかい」  頬に添えられたわたしの手をかるくんの手が覆う。嬉しそうなかるくんの言葉に嘘はないって思える。 「うん、じゃあここにいるから。風邪なんてひいちゃダメだよ?」  ちょっと冗談めかして言ってみる。するとかるくんはわたしの手を口元に寄せ、軽くキスをした。 「大丈夫。みっかがいるなら風邪菌だって吹き飛んじゃうさ」  どこまで本気でどこまで冗談なんだか。それでもかるくんにそう言ってもらって嬉しいわたしがいる。  ふと、肝心な事を忘れているのに気がついた。 「あけましておめでとう、かるくん」  わたしの言葉にかるくんも目を細める。 「おめでとう。今年もよろしく」 「うん。今年もよろしくね」  今年も来年もその先もずっと、かるくんの傍にいたい。神様に願えばすべてが叶えられるとは思って いないけれど、それでも神様に願いたい。 「さ、初詣行こ」  神社に向かう人波を指さし笑う。 「みっかは今年もベビーカステラ、買うんだろ?」  人をまるで食いしんぼみたいに言うかるくん。まあ、否定はしないけど。でも。 「それもいいけど、ぜんざい食べよ? 食べてあったまろ?」  少しでも温まって、かるくんが風邪をひかないように。 「それとも甘酒のほうがいいかな?」  わたしの言葉にかるくんが笑う。 「みっかがお望みなら、全部でも?」  もお、かるくんたら。 「ともかくまずは、お参りしないと」  わたしの手を引き、かるくんが歩き出す。その繋がった手は、ほこほこと温かい。 「そうだね。神様に感謝とお願い、しなくちゃね」  かるくんと出逢わせてくれてありがとう。そして今年もかるくんが幸せでありますように。

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