光と闇のホワイトデー  陽射しがなんとなくポカポカと暖かくなってきた。  かるくんと待ち合わせている公園へと、軽い足取りで歩いて行く。  今日はいつもよりちょっとだけ、おめかしをがんばってみた。だって今日はホワイトデー。かるくん、 気に入ってくれるかな。  今年のバレンタインはちょっとがんばって手作りトリュフを作ってみた。かるくんは大喜びで、 ホワイトデー楽しみにしてろって言った。  だから今日は、いつものデートよりちょっとわくわくしてる。もちろんいつものデートだって わくわくしてるけど。  あの角を曲がれば待ち合わせの公園。時間はちょっと早めだけど、今日かるくんは更に早く来てる 気がする。  だからちょっと髪がはねてないか、服が変になってないかもう一度チェック。  それからふと、イタズラ心がわいて物陰からかるくんの様子を見てみようと思った。  どんな風にわたしの事待っててくれるのかな。  ちょっとドキドキしながら待ち合わせの場所を覗く。と、そこにはかるくんと向かい合って、 お兄ちゃんの姿。  なんでお兄ちゃんが? かるくんにまた酷いこと言いに来たの?  慌てて二人の元へ行こうとした時、お兄ちゃんの声が聞こえた。 「お前は闇の一族だろう。何の目的でみつかに近づく」  胸がズキリと痛む。  いつだって、そんなくだらない理由でわたし達は引き裂かれる。そんなもの、わたし達には どうだっていいのに。  睨んでいるお兄ちゃんに、かるくんは真剣な瞳で言葉を返す。 「オレがみっかに近づくのは、彼女の事を愛しているからです。一族とか、そんなもの関係ない」  かるくんの言葉が痛んだわたしの胸の傷を癒してくれる。ほっこりと胸が温かくなる。 「闇の者の言葉が信じられるか」  かたくなにお兄ちゃんはかるくんの言葉をはねつける。  これ以上お兄ちゃんがかるくんを傷つけない内に、とわたしは慌てて二人の元へと駆け出した。 「もう、お兄ちゃん。いい加減にして」  今はもう闇とか光とかそんな事にこだわる時代じゃないのに。  飛び出して来たわたしに二人は驚いたようにこちらを見た。 「ごめんね、かるくん。わたしはかるくんが何者だろうとかるくんが好きだからね」  当然かるくんは分かってるだろうけど、それでも確認するようにわたしは言葉にする。不安な時は 言葉を聞くことで安心出来るから。安心したかるくんを見て、わたしも安心したいから。 「ああ、オレもみっかが何者でもみっかの事を愛してるよ」  嬉しそうに微笑むかるくん。  だけどお兄ちゃんは当然不満そうな顔になる。 「目を覚ませ、みつか。オレ達と奴らは違う生き物なんだぞ」  お兄ちゃんの言葉に悲しくなる。 「何を言ってるの? わたし達は何も変わらない。同じ人間じゃないの」  世界が違えばお兄ちゃんとかるくんは親友だった事もあるのに。  だけどその事が救いにも繋がる。こんなにもかるくんとお兄ちゃんの関係が違う世界も あるんなら……。 「……お兄さん。オレは貴方達と敵対するつもりなんてないし、みっかを騙してもいません」 「誰がお兄さんだっ」  かるくんの言葉にお兄ちゃんが過剰反応する。 「す…すみません。しかしお名前を伺ってないもので……」 「貴様に名乗る名前などないっ」  せっかくかるくんが折れて謝ってくれても、そんな風に拒絶する。  もう、本当にお兄ちゃんたら。 「だったらお兄さんって呼ばれても仕方ないじゃない。その内義弟になるんだから、ちょうど良いじゃ ない?」  わたしの言葉にお兄ちゃんは渋い顔をして口を開きかけた。けど、その声が聞こえる前にかるくんの 腕を引き、呼びかける。 「頑固なお兄ちゃんはほっといて、行こ」  かるくんはちょっと躊躇しているようだったけど、わたしが強引に引っ張るもんだから諦めてわたしに 付いて来てくれた。  お兄ちゃんはというと怒りながらわたしの名前を呼んだけど、わたしはきっぱり無視してやった。  やがてお兄ちゃんの姿が見えなくなると、心配そうにかるくんが口を開いた。 「良かったの? お兄さん」 「いいのよ。もう、お兄ちゃんたらクリスマスといい、今日といい。なんでああなの?」  つい愚痴ってしまってからかるくんが悲しそうな顔をしているのに気が付いた。 「ごめんね、かるくん。嫌な思いさせちゃって」 「いや。オレよりもみっかとお兄さんが仲違いしちゃうほうが悲しいよ」  そう言ってくれるかるくん。思わず抱きついてしまった。傷つけられたのはかるくんなのに、それでも わたしの事を考えてくれてるなんて。  そんなかるくんが愛しくて、体に廻した腕にギュッと力を込める。 「ありがとう。きっといつかお兄ちゃんも分かってくれるから。それまでつらい思いをさせちゃうかも しれないけど、でも待っててね」  わたしに応えるようにかるくんもわたしの体に腕を廻してくれる。 「確かにオレ達生まれは違うけど、それでも巡り会えて良かったと思ってる。だから幸せになろうな」  彼の言葉にこくりと頷いてみせる。 「きっと幸せになれるよ」  切実な願いを込めて呟く。  闇の一族と呼ばれるかるくんと、光の一族と呼ばれるわたし。  何故そう呼ばれているのか、何故この二つの一族は昔敵対していたのか、この世界のわたしは 知らない。  それでも未だに二つの一族が仲良くはない事は知っている。お兄ちゃんのように他にも反対する人は 出て来るだろう。  だけどわたしは、かるくん以外の人は見えない。 「そうだ。これ、ホワイトデー」  にこりと笑ってかるくんが差し出した箱は、ちょっとラッピングが素人臭い。まさかと思いつつ、 かるくんに訊いてみる。 「もしかしてこれ、かるくんの手作りとか?」  するとかるくんは笑いながら「まあとにかく開けてみてよ」と言った。  促されるまま箱を開け、わたしはなるほどと頷いた。中に入っていたのは見たことのある市販の クッキー。だけどその上にアイシングやチョコペンで色んな模様やメッセージが書かれている。  どんな顔してこれを書いたんだろうと想像して胸がほっこりとした。 「ありがとう、かるくん」  中のひとつを手に取り、にっこりと笑う。 「わたしも、愛してる」  手にしたクッキーにはハートマークと「あいしてる」の文字が書いてあった。

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