カッコウワルツ その2  それからというもの、わたし達は頻繁に三人で遊ぶようになった。最初の頃は、わたし達の家の 近くで。わたしが少し遠出が出来るようになってからはかるくんの家の近くや、他にも色んな場所へと 冒険に出かけるようになった。  そんなある日、通りかかったスーパーから懐かしい音楽が漏れ聞こえてきた。 「あ、カッコウワルツ」  そういえばお母さんと一緒にいつも来ていたのはこのスーパーだった。  懐かしくなってメロディを口ずさむわたしに、かるくんが首を傾げてきいてくる。 「カッコウが好きなの?」 「うん」  そう軽く答えてみてたけど、本当はカッコウがどんな姿なのかも知らなかった。知ってるのはただ 鳴き声が「カッコウ」というだけ。  それでもこの曲が好きだったからわたしは何も考えずにうんと頷いた。  するとかるくんは「ふうん」と呟いた後、ニヤリと意地悪く笑った。 「けど、知ってるか? カッコウって意地悪な鳥なんだぞ。他の鳥の巣に玉子産んで、先に孵った カッコウのヒナは元々の巣の玉子を全部巣の外に落としちゃうんだ」  その言葉にわたしは軽くショックを受けた。かるくんは優しいけど、たまに意地悪も言う。だから わたしがカッコウを好きって言ったからわざとそれを話したんだろう。  そんなかるくんはちょっとキライで、でもやっぱり大好きだ。  だけどそれとは別に、カッコウがそんな事をするんだと知ってちょっとショックだった。  鳴き声しか知らないで好きって言ってたくらいだから悲しくなるとかはなかったけれど、それでも 好きって言った鳥がそんなだと聞かされていい気分がするはずがない。  だからかるくんの話はわたしの中に深く印象付いた。  それからもわたし達はいつも三人で遊んだ。わたしももう、学校でお友達は出来ていたけれど、 それでもかるくんとお兄ちゃんの三人で遊ぶ事の方が多かった。  そして運命の日。  その日もいつもと同じ様に三人で遊んでいた。 「あれ? ポケットに入れてたペンが無い」  突然お兄ちゃんがそう言ってポケットや地面を探し始めた。 「どこに落としたんだろ」  慌てるお兄ちゃんを見て、わたし達もそのペンを探して地面を見る。 「どんなペン?」 「四色のやつ。シールが貼ってあって……」  お兄ちゃんのお気に入りのボールペンだ。 「家に忘れてきたんじゃないの?」 「さっき公園でちょっと使ったじゃん」 「じゃあ公園で落としたのかな」  お兄ちゃんは「探してくる」と言ってひとりで公園へと後戻って行った。わたし達も一緒に探すと 言ったんだけど、お兄ちゃんは先に行っててとわたし達を置いて行ってしまった。 「すぐに戻ってくるとは思うけど、どうする? 待っとく? 遊んどく?」  かるくんが優しく声をかけてくれる。  どうしようと思いつつ、わたしは「遊んで待ってる」と答えた。  かるくんと二人、かるくんちの前で遊んでお兄ちゃんを待つ。たいした遊びは出来ないけど、 しりとりやなぞなぞをして遊んでいた。 「日狩、誰と遊んでいるんだ」  ふと、知らない男の人の声が聞こえた。顔を上げるとかるくんは笑顔になった。 「父さん、どうしたの、今日は早いんだね。あ、この子友達でみつかって言うんだ。元々この子の お兄ちゃんと友達だったんだけど、今ではこの子とも仲良しなんだ」  笑顔でわたしを紹介してくれる。  そっか、かるくんのお父さんなんだ。  わたしも笑顔で頭をペコリと下げた。 「こんにちは。はじめまして」 「……こんにちは。今日はお兄さんはどうしたんだい?」  少し考えるようにゆっくりとかるくんのお父さんが言った。その声はとても優しかったのに、 なんでだろう、なんだかイヤな感じがした。 「今、忘れ物を取りに行ってるの。もうすぐ来ると思うよ」  それでもかるくんのお父さんだからと答える。 「そうか。…日狩をよろしくな」  そう言ってかるくんのお父さんはわたしに手を差し出した。  その手を取っちゃいけない気がした。  だけどせっかくかるくんのお父さんがよろしくって言ってくれてるのに、無視なんてしたくなかった。  おずおずと、握手をするために手を伸ばす。かるくんは特に不思議にも思ってない様子でそれを 見ている。  お父さんの手に、ギュッと握りしめられた途端、身体がビクリと跳ねた。何かが、繋がれた手を 通して流れ込んでくる。闇だ、と直感した。闇がわたしの命を喰いつくそうと、どんどん流れ込んで くる。 「いやっ」  急いで手を離そうとしたけれど、かるくんのお父さんは力強く握りしめたまま、放してくれない。 「みっか?」  異変に気づいたかるくんが驚いたように声をかけてくれる。だけどそれでも手を放してもらえない。  闇がその間も絶え間なくわたしの中へと流れ込んでくる。  必死にわたしも光を作り出し、対抗しようとするけれど、そんな事し慣れていないわたしの光では、 とても間に合うものじゃなかった。 「父さんっ。みっかが嫌がってるっ」  かるくんが、わたしの手からお父さんを離そうとしてくれている。だけどお父さんはかるくんの手も 掴むとそのままわたしの手に触れさせた。 「日狩、お前も……」  ギュッとかるくんの手が、わたしに押しつけられる。 「ああ…あああ……っっ」  かるくんの手からも、闇が流れ込んでくる。 「や…やめろっ。いやだっっ」  気づいたかるくんがそれを止めようと必死に腕を振り解こうとしている。だけどかるくんのお父さんの 力は強く振り解けないし、闇の流れを止める事も出来ない。  夢で見ていた、色々な世界での記憶があふれかえる。  どの世界でもわたしはかるくんに恋をしていて、かるくんもわたしを好きって言ってくれた。  どの世界でもわたしは光の一族で、かるくんは闇の一族だった。  そしてわたし達は引き裂かれる。  体中を闇が覆いつくす。光の一族のわたしは、そうされる事で命の灯火を消されてしまう。  似たような形でわたしを失った世界のかるくんの記憶がかすめる。わたしを殺してしまったと心を 閉ざしてしまう、かるくんが。  かるくん。かるくん。  わたしは死ぬのは怖くないよ。  だけどわたしが死ぬ事で、かるくんが不幸になってしまうのは、怖い。  だから必死で光を作り、かるくんに送り込む。  わたしはかるくんが大好きだよ。  わたしが死ぬのはかるくんのせいじゃないよ。  光と共に、このメッセージがどうかかるくんに伝わりますように。  カッコウは、他の玉子を蹴落として自分が育つのだとかるくんは教えてくれた。  だけど生まれて間もないカッコウの雛に、罪なんて無いと思うの。何も分からず、本能で そうしてしまうカッコウの雛に。  かるくんだってかるくんの意志で闇をわたしに送ってるわけじゃない。ちゃんとかるくんが、 わたしの事大好きだって知ってるよ。  だから、かるくんにも罪はないよ。  ねえ、かるくん、大好きだよ。  大好きだよ。

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