お姫様とシガツ その4  エルダは頭を抱えたくなった。  何故マインはお姫様に、牙をむくような事を言うのか。 「マイン。マリネ様はイトコのシガツに会いに来たんですから、隣に座って話すくらい 良いでしょう。貴女はここに座りなさい」  婚約云々は置いといてエルダはマインにそう告げる。  先程から失礼な事を言ってるのに見逃してくれているのは、シガツに免じてだという ことは分かっているのだろうか。 「でも……」  まだ納得出来ないと言いたげなマインに、キュリンギが話しかける。 「マインちゃん。二人は久しぶりに会ったんですもの。色々話をさせてあげましょう?」  助け舟を出してもらえてエルダはキュリンギに感謝した。  さすがに二人に言われると、ムッとしながらもマインは口をつぐみ、席へと着いた。  勝ったとばかりにマリネが悠然と笑みを浮かべて、シガツへともたれかかる。  シガツはというと、もう一度深く深くため息をついたのだった。  マインにはイトコがいない。だから小さな頃から村の子供達がこの二人はイトコなんだ よとか言って仲良くしているのを見ると、羨ましかった。もし自分にイトコがいたら、 きっと仲良くすると思っていた。  だけどシガツとマリネの関係は、見ていてムカムカとした。シガツは嫌がってるのに マリネがベッタリとひっついているのが嫌だった。  ていうか、例えイトコだったとしても女の子が男の子にあそこまでベタベタする?  そんなふうに心の奥底で思っていたら、マリネがシガツの婚約者だと言い出したのだ。  だけどシガツはすぐにそれを否定した。なのにまだマリネはベタベタしている。  師匠やキュリンギさんは久しぶりに会ったんだからと言っているけど、やっぱり納得 出来ない。 「それでシガツ様は、いつまでこちらにいらっしゃるご予定ですの?」  ベッタリとひっついたままマリネがシガツを見上げる。 「まだ弟子入りしたばっかりだから、当分はここにいるつもりだよ。……何もなければ」  せっかく弟子入りしたのだから、しっかりと魔法を覚えようとシガツは思っている。 だが今回の件でシガツの身分がみんなにバレてしまった。元々知っていた師匠は、 それでも関係なしに接していてくれたが、村中にこの事が知れ渡ればもしかしたら修業 どころじゃなくなってしまうかもしれない。  もちろん師匠や村長さん達が知らんぷりをしていたように、他の村人達もそんなの 関係なく接してくれるかもしれないが。  そんな少しの不安を感じながらシガツの言った事には全く気づかず、マリネは嬉し そうに顔をほころばせた。 「まあ。では度々会いに来る事が出来ますわね。嬉しいですわ。次はいつ参りましょう」  この発言に、その場にいた人みんなが焦った。  キュリンギやサールは、彼女が再び来るとなれば次はどんなおもてなしをすれば良いの だろうと焦り、マリネの召し使い達も次の護衛はどうすべきか、持ってくる荷物は何かを 頭を巡らす。ニールなどは、自分の行いが漏れる機会が増えてしまう事に恐怖すら 覚えた。  マインはもちろんムカムカしてるけど、相手はお姫様なんだから我慢しなくちゃ。 今日の昼には帰るんだろうからもう少しのガマンと思ってたのに、また来ると聞いて ますます腹が立った。そしてエルダとシガツは、そう度々来られたら、魔法の修業が 出来なくなってしまうと焦った。  だからシガツはマリネに向き合い、しっかりと彼女の目を見て言った。 「それはダメだ。マリネ、オレはここで魔法の修業をしているんだから、そう度々 来られると邪魔になる。悪いけどもうここには来ないでくれ」

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