異世界に飛ばされちゃったわたしは、どうもお姫様の身代わりに                        花嫁にされちゃったらしい。 その2  いったいわたしをどうするつもりーっ?  声が出ないぶん目で彼に問いかけようとした時、バタバタと誰かがやって来る気配がした。 「クロモ殿! 姫様は……っ」  バタンと扉を開けて入って来たのは、お父さんくらいの歳のおじさんだった。しかもこの人もなんか、 コスプレっぽい格好をしてる。ファンタジーに出てくる騎士とか兵士とかの鎧を着てない時の格好。  なんだろうコレ。もしかして、ドッキリ?  そう思ったらちょっとホッとした。変な事されるんじゃないかって勘違いした自分が恥ずかしい。 「お静かに願います」  クロモと呼ばれた彼は、入って来た人からわたしを隠すようにしながらそちらを向いた。展開に 付いていけてないわたしは、ただそれを見守るしかない。  おじさんの方はわたしの姿を確認したかったらしくて、ヒョイとクロモの身体を避けて覗き込んで きた。 「おお、姫様。ご無事でしたか!」  おじさんは嬉しそうに大声でそう言うとこちらへやって来ようとする。だけどそれをクロモが身体で ガードした。 「お静かにと言ったでしょう」  それが出来ないなら出て行けと言わんばかりの冷たい声。おじさんも気が付いたのか、無理に こちらに来ようとするのはやめて静かに声を出した。 「どういう事か、ご説明願えますかな?」 「それはこちらの台詞です。嫁してきた一刻後には連れて来た侍女と共に姿を消し、捜し当てた時には 崖下で侍女は息絶えていた。彼女は何者かに狙われていたのですか?」  ? 「かしてきた」ってなんだろう? 「そんな話は聞いていない。六人いる姫の中でも末姫様の御母堂は身分も低くなんの権力も持たない。 姫様自身もこちらへ来た時点で王族としての身分はなくなっている。彼女をさらって行く理由など、 無い筈だ」  えーと、もしかしてわたし、お姫様役なのかな。って事はこれ、何かそういうお芝居するイベント かなにか?  あー、もしかしてお姫様役の人が急に来られなくなって代わりにわたしにお姫様役をやってもらいたい とかなのかな?  クロモの顔をじっと見てると、わたしの視線に気づいたのか、振り向き彼は口を開く。 「無理せず横になっていて下さい。記憶を失って不安なのは分かりますが、まずは身体を休めて」  そういう設定なのか。なら最初から教えてくれとけば良かったのに。  そんな思いが巡ったけど、『まーいっか』と素直に従う事にする。 「姫様は記憶を失っておられるのか」  案の定その設定におじさんが食いついた。クロモとその話をしている間に、ベッドに横になろうと して、スニーカーを履いたままだった事に気づいた。  ドレスにスニーカー。さぞおかしな格好だったんだろうなと思いつつ、脱ぐ。けど仕方ないよね。 服は渡されたけど、靴は渡されなかったもん。  脱いだスニーカーをどこに置くかちょっと迷ったけど、ベッドの脇に揃えて置いてシーツに潜り込む。 海外に住んだらこんな感じなのかなぁ。  横になろうとしてふと、おじさんがスニーカーに気づいておかしな顔をしているのに気づいた。 「珍しい靴ですな?」  言われてクロモも振り向き、渋い顔をする。靴を渡し忘れてたことに今気づいたんだろう。 「……以前姉が足を痛めた時に作らせた物を借りています。女性の靴は、不安定ですから」  おじさんのほうを見ながら苦しい言い訳をしてる。 「少し拝見しても?」  興味深げにおじさんがスニーカーに目をやるんでいたたまれなくなってきちゃう。 「今はそんな事より彼女の事が先でしょう。侍女も亡くなり彼女自身記憶喪失なのですから、何が あったのか聞く事も出来ない。本当に彼女に狙われる理由はないのですか?」  やっぱ変だよね、ドレスにスニーカーなんて。クロモも誤魔化そうとしてくれているんだろう、話を そらしてくれてる。けどお芝居ならおじさんも、見て見ぬふりしてくれればいいのに。あ、でもこの お芝居を見てる人が疑問に思うからあえて触れたのかな。あれ? でも観客ってどこにいるんだろう? 「姫様はどの程度記憶がないのですか?」  あれこれ考えてたらおじさんが、そう言いながらベッドに近づいて来た。あんまり近づかれたら、 マズイんじゃ? 別人だとバレると困るし、それに……。  シーツで顔を隠しながらちらりとクロモに目を向けるけど、クロモに慌てた様子はない。 「失踪前後の記憶が抜けているのですか? それとももっと……?」 「あまり近づかないでいただきたい。彼女が怯えている」  クロモの言葉にわたしは、コクコクと頷いた。怯えてはいないけど、上から覗き込まれるのは困る。 しっかりシーツ引き上げてカバーはしてるけど、こんなに胸元の開いた服、しかもノーブラの状態で 上から覗き込まれるなんて、恥ずかしすぎるもん。 「……おそらく記憶はほとんど無いのではと思います。しかも言葉を失っている」 「なんと!」 「とにかく、そういう事ですから。今日のところはお引き取りを」  強引に話を打ち切って、クロモはおじさんを追い出しにかかった。おじさんはまだ何か言ってたけど、 クロモに押し切られる形で結局部屋から出て行ってくれた。

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