たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは                          また別のおはなし。 その13  一瞬、何が起こったのか分からなかった。  目の前の、魔方陣を真似して編んだレースから、小さな火が出てきた? まさか?  前にクロモとお姉さんが二人で試した時にはダメだったのに? 「ああ! やだもー、お姉さん。レースに重ねて魔方陣編んだんでしょう? さもレースで 魔法が発動したみたいに見せるために。びっくりさせないで下さいよー」  あははと笑ってお姉さんを見る。するとお姉さんは小さくぷるぷると震えたかと 思うと、顔を真っ赤にして満面の笑みを浮かべた。 「すごいわ、妹ちゃん。出来たのよっ。糸で編む魔方陣、完成したんだわ。なんてこと!  クロモっ。クロモちゃんっ。大変よ、早く来てちょうだいっっ」  興奮してお姉さんが大声を上げる。クロモ、仕事中なのに。  お姉さんの声にびっくりしたクロモが、慌てて飛んできた。 「どうした?」 「これ! 魔方陣。ちゃんと火が出たのよっ」  お姉さんがさっきの火の出たレースをバッとクロモに突き出して見せる。 「火が……?」  眉をしかめ、クロモがレースを受け取る。前回がっかりした分、期待しないようにして いるのかもしれない。  とういかわたしも実はまだ、信じきれていない。さっきの火はお姉さんが魔方陣を 編んじゃったんじゃないの?  けど大喜びしてクロモを呼んだお姉さんを見てると、本当に魔法が使えたのかもって 思う。わたしの編んだレースで、魔法が。  クロモが受け取ったレースをテーブルに置いて魔力を注ぎ込む。するとパァッと レースが光を帯びて……ボッと小さな火が灯った。 「ほ、ほんとに?」  まだちょっと信じられなかったけど、でも確かに火が着いた。 「こ、これは?」  別の、糊付けしたレースをクロモの前に出してみる。クロモも息をのみながら、その レースに魔力を注いだ。  それは水滴の魔方陣だったんだろう。中心にぷっくりと水滴が現れる。 「これは、前回も試してダメだったのと同じレースか?」  そういえば前に試したのって、水滴の魔方陣だったっけ? 「同じレースだよ。同じ魔方陣は編んでないもん。前と違うのは、糊付けしたって事?  ……魔方陣は形が大切って前に言ってたよね。て事は、編みっぱなしだと微妙に 歪んじゃってたレースが、糊付けする事で形が整った……?」  というか、形を整えながら糊付けするんだけど。うん、けっこう大変だった。 「素晴らしい!」  クロモが喜びと驚きの両方を表情に出しながら、わたしに両手を広げて近づいてくる。  え? もしかして抱きしめられる?  もちろんそれがレースの魔方陣が出来た喜びの抱擁だって事は分かってる。チーム戦で 優勝したりなんかしたら、特に仲良しじゃない相手でも抱き着いて喜びを分かち合う あれ。  けど、クロモが好きって自覚のあるわたしが意識しないわけがない。これでもかって くらいドキドキしながらクロモの腕が巻き付いてくるのを期待した瞬間。 「おめでとー、妹ちゃん。きっと魔法の歴史が変わるわ」  がばりと横からお姉さんが抱きついてきた。  ちょっぴり残念だったけど、それだけお姉さんにとっても嬉しい事だったんだよね。 うん。そうだよ。考えてみればわたしの編んだレースから魔法が出るってすごいじゃん。 嬉しい。  きゃあきゃあ喜びをお姉さんと分かち合っていると、突然お姉さんごとクロモが わたしに抱きついてきた。 「え? え?」  びっくりして固まる。  分かってる。ちゃんと分かってる。クロモは単に魔方陣の完成を喜んでるだけ。その 証拠にお姉さんごと、抱きついてきたんだもん。  なのにクロモの廻された手が触れてる部分が、やたら熱く感じる。胸がぎゅうっと 痛くなる。  好き。やっぱりクロモが好き。大好き。  クロモに他意がない事くらい分かってるのに、こうして抱きつかれたら頬が熱くなる。 泣きたくなる。 「君のおかげで世の中は便利になるだろう」 「そうですわ。ああでも、危険な魔方陣も存在しますから、このレースの作り方はあまり 他人に教えない方が良いかもしれませんわね」  クロモとお姉さんがそんな会話を始め、わたしから離れる。  わたしは赤い顔を喜びで興奮したせいにする為に、テンション高く二人に話しかける。 「えーと、難しい話は今度にして、今日はお祝いのパーティーしませんか? ごちそう 作ってお義兄さんも呼んで。いいでしょ? クロモ。今から準備だとちょっと大変かも しれないけど、せっかくだからパーッとお祝いしようよ」 「まあ素敵! いいわよね、クロモちゃん」  お姉さんも楽しそうにクロモを見る。  いつもだったら渋い顔をするクロモだけど、今日ばかりは笑顔で「そうだな」と頷いた。

前のページへ 一覧へ 次のページへ


inserted by FC2 system