剛毅とぶらぶら散歩 その1  翌日、宣言通り剛毅と二人で街を歩く事になった。 「ちぇーっ。ズルイな〜剛毅。姫様と二人きりなんてさー」  出掛ける前、そんな風に口を尖らす園比に剛毅はニヤリと笑い返す。 「羨ましいだろ〜」  本気でそう思ってくれてるのか、それともただの言葉遊びなのか。  どっちかっていうと後者の方なんだろうって分かるのがちょっと淋しい。  それでも園比はぐいとわたしの手を取って子犬のようにくりっとした瞳をうるうるさせてこっちを見た。 「姫様。剛毅なんかやめて、僕と一緒に行こうよ」  ショタ好きなら一発で落ちてしまいそうなシチュエーション。だけど最近のわたしはそんなに ショタ派じゃない。かわいいなぁとは思うけど、萌えの発動は特に無かった。  なのでわりと冷静に、にっこりと笑えた。 「今日は剛毅と約束だから。園比には明日、お願いしていい?」  順番どうしようとか思ってたから、正直これは助かったかも。  園比はちょっと拗ねた顔をしてみせたけど、すぐににっこり笑って小指を突き出す。 「じゃ、指切り。明日はぜーったい、一日中僕と二人きりだからね?」  か、かわいい。ショタ萌えじゃないと言いつつ、こういうかわいい態度とられるとつい、ほだされそう。 「うん、約束ね」  指を絡め、指切りをしていると剛毅が手刀でポンと指を切った。 「はいはいお終い〜。今日はオレの日なんだから園比はそこまで。じゃ、行くよ姫さん?」  ぱっとわたしの手を掴み、歩きだす。  な、なんかこれってヤキモチ妬いてるっぽい? いやん、なんか嬉しー。  もちろん剛毅的には救いの姫さんを守る役目を取られまいとしてるだけなんだろうけど、うんうん、 勝手に乙女ゲー的恋愛変換させてもらって楽しもう。  ニヤニヤ笑いつつ、手を繋いだまま歩く。と、ふとわたしの表情に気づいた剛毅がビミョーな顔に 変わって、繋いでた手を離した。 「何ニヤニヤしてんの? 気持ち悪」  キモ?! ……。  いや、実際そうかもしれないけどさ。口に出して言うことないじゃん? 傷つくよ?  確かにゲームに浸ってる時、暗転する場面で真っ黒になった携帯ゲーム機の画面に自分の顔が映ると 自分でもキモって思うけどさ……。  ずーんと落ち込んだわたしに気づいたのか、剛毅が慌てて言い直す。 「あ、いや。姫さんがキモチ悪いんじゃなくて、オレなんか笑われるような事したかなって。それが 分かんないと気持ち悪いじゃん?」  優しいなぁ、剛毅。でもその言い訳、ちょっと苦しくない? 「そだね。でもわたしだって一人でニヤニヤしてる人見たら気持ち悪いなって思うよ。だから気に しないで。ごめんね、剛毅」  ニヤニヤしてた理由は言わずに謝る。っていうか理由は聞かないで。恥ずかしいから。 「とにかく行こう」  理由を聞かれない内に剛毅の手を引っ張って歩き始める。。けど、すぐにわたしは立ち止まった。 「……これからどこに行けばいいかな?」  そんなわたしに豪快に剛毅が吹き出す。それからひとしきり笑った後、剛毅はわたしを見た。 「んー、〈唯一の人〉を捜すんだから出来るだけ色んな人に会った方がいいんじゃないのかな? だから まあ、街を歩くんでいいんじゃないの?」  そうだよね、人の多い所にいるとは限らないけど、もし隠しキャラがいるとしたら、会わない事には 話が進まないし。あー、でもそういうのって話が進む内に勝手に出てきてくれるのかな。でもでも暢気に してて夢が覚めてもやだし。 「道案内の時はそれがメインで大雑把に歩き回るだけだったから、今日は姫さんの行きたい店とか 細かくまわってみるってのはどう?」  剛毅の言葉にうんと頷き、わたしたちは街へと向かった。  商店街に入って、わたしの好きそうなお店に入ってみる。雑貨屋さんとか洋服屋さんとか。  本当の事を言うと、現実では滅多にそういうお店には入らない。嫌いな訳じゃなくて、好きなんだけど、 好きだから買いたくなるけどそう度々買うわけにもいかないから入らない。  若い頃は友達とウィンドウショッピングできゃっきゃと入って買わずに店を出る、なんて事も してたけど、この年になると友達はみんな家庭持っちゃってて、そういう遊び方は無縁になって しまった。  かと言って一人でお店に入ると何か買って帰んなきゃいけない気がする小心者なもんで、今では 何か買わなきゃいけないものがある時だけしか、入らない。  なもんで、久しぶりにこういうお店に入ってわくわくした。しかも隣には男の子。これでわたしが 若かったら、立派なデートだよね、うん。  だけど三軒目のお店を出た所でわたしは言った。 「やっぱ、わたしの入りたいお店に行くってのはやめよう」 「ん? なんで?」  きゃっきゃとはしゃぐわたしに付き合ってくれてた剛毅が不思議そうな顔をする。 「だって、よく考えたらわたしの行きたいお店ってお客も店員さんもたいてい女の子の所なんだもん」  本来の目的の〈唯一の人〉捜しから大きくはずれている。 「おお、そういえば。でも道を覚える為には役に立つと思うけど? その証拠に沙和姉ぇの店の場所は ちゃんと覚えてたじゃん」  そうなのよね。自分に興味のある事についてはちょっとは記憶力マシになるみたいで、沙和さんの お店の場所はバッチリ覚えてた。 「それは一理あるけど、でもやっぱ空の小鬼も出た事だし、〈唯一の人〉捜し、急いだ方が良いと 思うのよ」  夢もいつ覚めるか分かんないしね。  わたしの言葉に剛毅は「んー」と考えている。  にしても急ぐんならやっぱいるかいないかも分かんない隠しキャラ探すより、四人から選ぶこと 考えた方が良いのかなぁ?  そんな事を考えてたら剛毅が声を掛けてきた。 「それじゃあどこに行く?」  そう聞かれると、特に行きたい場所があるわけでもなく……。 「うーん、どうしよう?」  二人してしばらく考えてみたんだけど特に決まらず、結局あてもなく歩き始めた。

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