園比といちゃいちゃ(?)デート その2  納得いかないという顔をしてしまったわたしに、園比はにかっと嬉しそうに笑う。 「もしかして姫様、妬いてくれてんの?」 「いやいや、誰に妬くって言うのよ」  すかさず言うと園比はちぇーっと口を尖らせた。 「せっかく僕のこと男として意識してくれたかと思ったのに」  拗ねる仕草でそんな事を言う。そんな事言ったら園比がわたしの事好きなんじゃないかって 誤解しちゃうよ? 「僕ってさ、ホラ童顔じゃん。だからいつも子供っぽく見られて女の子たちに男として意識されない んだ」  あー、なんか分かるかも。弟系が好きな人にはそれがかわいーって思って貰えるんだろうけど、 そうじゃない人にとっては頼りなく感じちゃうよね。特に同年代の子は。 「でも園比の場合、それを利用してるようにも見えるけど?」  童顔でもしっかりしてる子なら、最初は子供っぽく見えてもその内そうは見えなくなる。年相応、 もしくは年より上に見える事だってあると思う。  けど園比の場合、そうじゃない。 「ええ? 利用って、酷いこと言うなぁ。どーゆー意味?」  ぷっと顔を膨らます。 「本当に園比が子供っぽく見られたくないんなら、そんな仕草はしないでしょ?」  身近な大人っぽい人……例えば戒夜を見習って、真似でもして表情や口調を変える事だって 出来るはず。そりゃ最初は背伸びした子供みたいに違和感あるだろうけど、それが馴染むほど 続けていけば、今ほど子供っぽくは見えないと思う。  けど、園比はそうはしない。 「園比、無邪気な子供装って女の子に触ろうとしてるだけでしょ」  わたしが指摘すると園比はびっくり目になって、それから笑いながら拍手しだした。 「さすが姫様。せーかい。さっきも言ったけど、僕女の子好きだもん。とーぜん触りたいよ」  ケラケラ笑いながら言う。 「正直だね」  半分呆れながら言う。 「うん。だから触っていい?」  急にニヤリと笑って園比がわたしの肩に手を回してきた。 「こらこら。いいも何も許可する前に触ってんじゃん」  困った子だねと思いつつ、きゅっと手の甲をつねってやる。 「いてー。ちぇーっ」  口を尖らせ拗ねるようにそう言って園比はわたしを見た。 「剛毅はいいのに僕はダメなのー?」  は? 剛毅?  なぜ急に剛毅の名前が出てきたのか分からず、きょとんとする。 「だって昨日、剛毅の膝の上に座ってたじゃん。あれに比べたら肩抱くくらいかわいーもんだと 思うけどー?」  拗ねながら言う園比の言葉に、ポンと昨日の公園での出来事が浮かび上がった。途端に剛毅の 身体の感触を思い出して、カァッと顔が熱くなる。 「あ…あれは事故でしょ!? ていうか見てたの!?」  あんな恥ずかしい場面見られてただなんて……うあー、恥ずかしいっ。 「むー。そりゃ、見てたよ。言ったじゃん、一人が姫様の近くにいて他の者は影ながら見守るって」  そ、そうだっけ? でもそれじゃ、プライベート問題ちっとも解決してないじゃん。 「……じゃあ今も他の誰かがわたしたち見てるってこと?」  ついキョロキョロと辺りを見回し他の人達の姿を捜してしまう。  けど、だとしたらよく今まで園比の行動にダメ出ししに出て来なかったな。戒夜あたり絶対渋い 顔してると思うんだけど。  そんなこと考えながらふと園比を見ると、何故か拗ねるというより怒ってる顔に変わっていた。 「そうだよっ。交代で見守る事になってる。空鬼が出て来ない限りは絶対に邪魔しないって約束で」  ああ、だから誰も止めに来ないのか。それは納得出来たけど、不機嫌な園比の理由が分からない。 「園比……、なんか怒ってる?」  すっかりへの字口の園比に、恐る恐る訊いてみた。 「怒ってるよっ」  言い放ち、園比は眉間にしわを寄せた。  今までちょっぴり拗ねたように怒ったり、だだをこねるように怒ったりってのはあったけど、 コロッと機嫌は治ってた。でも今回のはちょっと怒り方が違うっぽい。なんかすぐには機嫌が 治りそうにない。  でも何を怒ってるのかが分かんないから、対処方法が分かんない。  オロオロしだしたわたしに気づいて、園比は深くため息をついた。  そして口を尖らせて言う。 「僕が手を握ったくらいじゃちょっぴり頬を赤らめるくらいなのに、剛毅の場合は話に出ただけで、 真っ赤になっちゃうんだ?」  え? ええ!? 何を言い出すのかと思えばこの子は。 「赤くなったのは剛毅を意識したからとかじゃなくて、単に恥ずかしい場面を見られちゃったから だよ?」  わたしの言葉に園比はじーっと考えてる。ウソじゃないんだけどなぁ。  確かに昨日のあれはラブイベントっぽくて良い感じだったんだけど、剛毅は対象から外すって 決めちゃったもん。これ以上関わって本当に意識するまでになるつもりはない。  だけど園比は疑わしそうにじっと考え込んでいる。 「だからもしあの時の相手が園比でも、透見でも戒夜でも、他の人に見られてたって知ったら 恥ずかしくて赤くなっちゃうよ? 特定の相手だからってわけじゃないの」  念を押して言うと、園比は顔をあげてわたしを見た。それからにこっと笑い、わたしの手を 握りしめる。 「つまり、恥ずかしかっただけで、剛毅を意識したんじゃないんだね?」  言いながら、握る手の強さがぎゅっと強くなる。 「だからさっきからそう言ってるでしょ?」  その言葉にホッとしたのか園比は繋いだ手をブンブン振りながら歩きだした。 「良かったー。剛毅に先越されたかと思っちゃったよ」  ポソッと呟いた園比の言葉に、あれっと思った。  もしかして園比、自分が〈唯一の人〉になれる可能性があるって気づいてる?  だけどそれはわたしの気のせいだったみたい。 「ところでさ、〈唯一の人〉ってどうやって捜すの?」  ケロリとそう尋ねてくる。 「どうやってって……地道に色んな人に会って?」  すでに小鬼に見つかっているのに、効率の悪い捜し方だと思うけど、特別な能力とかを持ってる わけじゃないから他にどうしようもない。  もっとも本当は四人の中から、あ、剛毅は除外したから三人の中から選ぼうとしてるから、 出歩く必要は無かったりするんだけど。 「会ったら、分かるの?」  う、するどいところをついてくる。  園比としたら、単に疑問に思った事を素直に口に出しただけなんだろうけど、わたしとしては 答えにくい。 「た、たぶん」  言葉を濁すと園比はびっくりした顔でわたしを見た。 「たぶんて、分かんないかもしれないの!?」  予想外の答えだったんだろう、叫んでわたしをじっと見る。  うー、これは正直にわたしが選んだ人が〈唯一の人〉になるって言っちゃった方が良いのかな?  もしもわたしが若くてそれなりにかわいい、普通の体型の設定でこの夢見てるんだったら、 正直に話して〈唯一の人〉候補の男の子達にモテモテで誘惑されるってのも楽しいのかもしんない んだけど。でも現実のままのブスでブタでおばさんのわたしじゃあ、皆に逃げられてテキトーに 合いそうな人見繕われて宛てがわれそうだよね……。  そんな事を色々考えてる間園比も色々考えてたみたいで、急に「うん」と言うとにこりと笑って こう言った。 「遊園地に行こう!」 「はあ?」  なぜ遊園地? とか思いつつ、特に断る理由もないので園比に連れられ付いて行く。  というか、同年代みんな幼馴染みとか言ってる狭い島とか言ってたのにそんな遊園地なんて あるの? とか思ってたら、想像してたよりずっと小さな、昔で言うならデパートの屋上にあった 規模の遊園地だった。観覧車はそれなりの大きさがあるけど、他はミニコースターやブランコ みたいなのに乗ってくるくる回るやつ(名前知らない)あと二つ三つ。小学生低学年でも乗れる ような物ばかりで、一〜二時間あったら全部制覇出来るんじゃないだろうか。  そんな風にわたしが考えてるのが分かったのか。 「あ、子供向けの遊園地ってバカにしたでしょ?」  いたずらっ子の瞳をして園比が言う。 「そんな事は……」  ない、とも言いきれないかも。 「まあ、とにかく乗ろう」  楽しそうに園比はわたしの手を引いてミニコースターへと向かった。  ミニ、と名の付く通り、それは乗り場に立ってもコース全体を見渡せる規模だった。乗員も八名、 一周するのに一分もかからないんじゃないかって程度。高低差もそんなにないんじゃないだろうか。  ほんとの事言うと、絶叫系はあんまり得意じゃない。昔、せっかく並んでたのに直前で「やっぱ 無理」と逃げ出して友達に怒られた経験もある。  けどこのコースターは年齢制限もないやつだ。さすがにここで尻込みする程苦手じゃない。  都会の有名な大きな遊園地と違い、行けば並ぶことなくすぐに乗れる。ていうか、八名の乗員すら 満席にならず、出発するみたいだ。これで動かして採算は取れてるんだろうか?  まあ、そんな心配は経営者に任せとこう。 「しゅっぱーっつ。怖かったら僕にしがみついてもいいからね」  隣りに座った園比が楽しそうにそう言う。 「さすがにしがみつく程怖くはないよ」  わたしも笑いながら言うけど実は、手すりを握った手は握力全開だ。そんなに怖くないのは 分かってるのに、どうもこれだけは譲れない。 「それはどーかなー?」  にやにやと笑いながら園比が言うと同時に、出発のブザーが鳴り、ガタンゴトンとコースターが なだらかな坂を登り始めた。  高さも角度もゆるやかに登り、ふわっと軽く滑り降りる。それでも子供は怖いのか、それとも 楽しいからなのかキャーキャーと叫ぶ声がする。  わたしはというと、手はぎゅっと握ってはいるもののやはりさほど怖いとは思わず、まあ楽しく 風を感じていた。  隣りを見ると園比はさすが余裕で両手を上げ楽しんでいる。  ミニコースターはあっと言う間に最終コーナー。ゴールが見えあっけなく終わろうとしたその時、 思わぬ場所でふわりと浮遊した。 「ひゃあっ」  予想してなかった場所での落下に思わず声が出る。  はたから見れば、落差なんてほとんど分からないくらいの高さのそれは、それでもプチ サプライズには充分で、わたし以外の人もそこで短く悲鳴を上げていた。 「あはは。結構怖かったでしょ?」  たぶん園比はそれを知っていたんだろう、コースターから降りる時、手を差し伸べながら そう言った。 「怖いというより、びっくりしたよ」  それが正直な感想。  それでもびっくりしたせいか、胸のドキドキと共に足が少し震えてた。  年のせいなのかどうなのか、たったそれだけでフラリと足がもつれてふらつく。  待ってましたとばかりに園比が肩を抱き寄せ支えてくれる。 「大丈夫?」  耳元で園比に囁かれ、頬が赤くなるのを感じた。  さすがだ。伊達に女の子好きを公言してるわけじゃない。ちょっと、いやかなりドキッと したかも。  だけどこれって半分は吊り橋効果のせいなのかもしれない。だとしたらそんなものに流されちゃ いけない。  わたしは慌てて体制を立て直した。 「ありがと。いや、年かなぁ、足がふらついちゃった」  照れ隠しに頭をポリポリと掻いて、笑って誤魔化してしまおう。  そんなわたしの思いに気づいてるのかいないのか。 「じゃあ足休めるために、観覧車に乗る?」  園比がそんな提案をしてくる。それについ頷きかけて、やめた。座って休むって事は賛成だけど、 観覧車って高いし狭いし個室だし、園比と二人っきりってのはちょっと……気まずい。そんな気が する。 「えーと、もう乗り物はいいや。<唯一の人>捜しもしなくちゃいけないし、とりあえずそこに 座ってジュース飲もう」  園比を選ぶって決めた後なら観覧車で密室デートは外せないラブイベントだけど、まだ誰に するか決めてない今は、さっきのコースターで充分、だよね?  そんな事を考えながら、わたしは近くにあったベンチに腰掛けた。

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