攻略キャラと二人で食事なら、このイベントは欠かせません その1  その後ちょっとの間、ぎくしゃくしちゃったけど、色んな絵を見てあれこれ意見を交わしている内に、 なんだかんだといつもの雰囲気に戻ってほっとした。 「これで出してもらった絵は一通り見終えましたが……。気になる絵はありましたか?」  いつもの優しい笑みを浮かべて透見が訊いてくる。 「んー。最初に〈唯一の人〉か空鬼かって話した絵くらいかなぁ……。他はただの姿絵が多かったから、 何か意味がありそうって言ったらあれくらいだよね?」  他の絵はどれも一人もしくは二人でただ立っているだけの絵。  もちろんそれでも小物や背景に意味が込められている場合もあるんだろうけど、残念ながらわたしには 分からない。 「私はこの絵も少し気になっていますが……」  そう言ってひとつの絵を指さす。〈唯一の人〉を描いた姿絵。 「なんだか剛毅さんに似ていると思いませんか?」  その言葉に驚きながら、その絵を見た。でも。 「そうかな? そりゃあ透見と剛毅、園比や戒夜の中で誰に似てるって訊かれたら剛毅かもしれないけど、 それ程似てないよ? そんな事言ったらこっちの〈唯一の人〉だって真面目な顔した園比っぽくない?」  わたしが指さした絵を透見はじっと見た。そして頷く。 「言われてみれば。園比さんは滅多にこんな表情はしませんが」  しれっと言う透見に、つい笑いが出てしまった。 「ひどーい。園比が聞いたらきっと怒るよ?」 「? 怒らすような事を言った覚えはありませんが」  透見の言葉に、そう言えば天然っぽいトコあったんだっけと思い出す。  でも、そんな透見が好きだな、と思うと笑いが止まらない。 「とにかく、ここにある絵が剛毅に似て見えても気にする事ないと思うよ? そもそもここにある絵が 本当に〈唯一の人〉を見たことがある人が描いたのか、それとも見たことない人が想像で描いたのかも 分かんないんだし」  永嶋さんがいれば少しは何か分かったかもしれない。だけど彼は今席を外していて、絵に関する 資料なんかもここには無かったりする。 「しかし姫君は絵に何らかのヒントがあるのではと思っているのでしょう?」  その為に先日は神社に、今日は美術館に来たのでしょう? そう言いたげに透見がわたしを見る。 「うん。見れば何か手がかりになるものがあるかもって思ったんだけど……。ちょっと的外れだったの かも?」  ごめんね、と頭を下げた途端、わたしのお腹がグウと鳴いた。  やだ、恥ずかしい。夢だってのになんでこんなお腹の虫鳴いちゃうかなぁ?  ちらりと透見を見ると、いつも通りの優しい笑みを浮かべていた。 「ああ、もうこんな時間でしたか。すみません気が付かずに。お昼に行きましょうか」  壁に掛かった時計を確認し、透見が言う。わたしもつられて時計を見ると、もう十二時半を回っていた。 「うん。でも、永嶋さん待ってなくて良いのかな?」  別に一緒にお昼っていうつもりはない。けど、大切な美術品を置いてる部屋を空にしてしまうのは 良くない気がする。 「その辺の学芸員を捕まえてお昼を食べに行くことを伝えれば問題ないでしょう。ちょっと待って下さい」  わたしが言いたいことを察して透見はそう言い、わたしを残し部屋を出た。  独りになると、途端に不安になる。元々一人が好きなクセに独りが怖いわたしは、慣れない場所に 一人になると不安で不安で仕方がなくなる。  だからたぶんほんの五分くらいの事だったんだろうに、何時間も待たされたような気分になっちゃって たかもしれない。 「お待たせしました、姫君」  透見が若い学芸員さんを連れて戻って来た時、かなりほっとしてしまった。 「それでは戻られましたら受付の方へお声を掛けられて下さい。その頃には館長も戻っていると思います ので……」  部屋を出ると学芸員さんが鍵を掛け、にこりと笑ってそう言ってくれる。 「それではまた後程」  挨拶を交わし学芸員さんは自分の仕事へと戻って行った。 「では私達も行きましょう」  そう言い、透見が軽くわたしの背を押す。 「あ、うん」  導かれるように歩き出し、ふと透見が美術館の出口へと向かっている事に気づいた。 「どこに行くの? 館内のレストランで食べるんじゃないの?」  小鬼に見つかる確率を低くする為にもあまり外はうろつかない方が良い。だからてっきりお昼は館内の レストランで食べるんだと思ってた。ここの美術館は初めてだからどこにあるのかは知らないけれど、 今まで行った事のある美術館はたいていレストラン、少なくとも喫茶店が入ってたから。 「ここのレストランが不味いという訳ではないのですが、近くに姫君にお勧めしたいレストランが ありますので、そちらに参りましょう」  声を潜め、透見が言う。 「でも、いいの?」  誰かが遠くから見張ってくれているのかもしれないけど、フラフラ外を歩くのは、なんだか躊躇われた。 「すぐそこです。歩いて五分もかからない場所ですから」  にこりと笑い、再び透見がわたしの背中を押す。そこでふと気づいた。透見、ずっとわたしの背に 手を当ててる?  小鬼が出た時にすぐに守れるように、という考え方も出来るけど、ちょっと恋人同士が歩いてる風にも 思えてちょっと頬がふやけてしまった。

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