相手に知られないように その2  シガツが人間の家へと入って行くのを見届けて、ソキはふわりと空高く飛び立った。 途中からシガツに付いて歩くように低い場所を飛び続けていたから、現在地がいまいち 分からなくなっていた。  高い場所から景色を見渡し、たいして遠くに行っていない事に気づいた。 「人間って大変なんだなぁ……」  シガツの昨日の様子を思い返し、そう呟く。ソキならばヒョイと越えられる場所も とても苦労していた。だからたったこれだけの距離なのにあんなにも時間がかかったの だろう。  今度から、人間の道も気にしながら飛んでみよう。  そう思いながら道を目で追う。人間にとって道はとても歩きやすいものらしいから、 これからシガツと共にあるならそれは必要になってくるだろう。  そうして色んな道を眺めていると、遠くから覚えのある恐ろしい風を感じた。  フィームが近くにいる。  シガツに伝えるべきか、一瞬迷った。けれど知らせに行って一緒にいるところを フィームに見つかればきっと警戒されてしまうだろう。  フィームもソキの気配に気づいたのだろう。すぐに彼女の元へとやって来た。 「まだこの辺りにいたのか、ちび」  別段怒っているようではないが、だからと言ってソキがここにいる事を歓迎している わけでもない。  ソキは頷き、口を開いた。 「なんだか面白そうだから」  楽しい事が大好きな風の精霊の、最もそれらしい理由だった。  ただ、個々によって楽しいと思う事が違うから、ソキの言い分に特に興味を示さず フィームはただ「ふうん」と唸っただけだった。 「フィームは、昨日のあれをあそこに置きに来たの?」  何の気なしに、そう訊いてみる。  フィームの風の影響か、普段髪が邪魔になるように顔にかかる事はないのに、今日は なんだか気になってかきあげる。そしてもう一度フィームへと顔を向けると彼の形相が 変わっていた。 「お前、それ」  恐ろしい顔で腕を伸ばされ、ソキは無意識に逃げ出そうとしていた。しかしフィームの 風に腕を捕らわれ、彼の元へと引き寄せられてしまう。  なんで急に。何かフィームの気に障るような事を言ってしまった?  怯えながら彼を見ると、フィームは彼女の手を取り再び口を開く。 「これ、誰にやられた。……昨日の二人のどちらかか?」  ソキの指にはまったリングを示し言うフィームを見て、彼の怒っている理由が分かり ソキはホッとした。 「違うよ。捕まってないよ。ホラ」  そう言うとソキは自らの手で指輪を外してみせた。  もし契約の指輪が有効ならば、契約者である風使い以外はその指輪を外す事は出来ない。 もし無理に外したら外した者も外された精霊も死に至ると言われている。  だから指輪を外す事で本当に捕まっていないのだとフィームに示してみせた。  そう、シガツはソキを捕まえたと思っているようだったが、実際はソキは捕まった フリをしていただけだった。 「ならばなぜ、そんな物をはめている」  怒りは治まったものの、納得がいかないといったふうに眉を寄せフィームが呟いた。  誇り高い精霊が人間に使役されるなど、許せない。  そう言わんばかりに忌々しげにソキの手の中の指輪を睨みつける。 「貸せ、オレが壊してやる」  そう言われ、ソキは慌てて指輪を隠すように握りしめた。 「ダメだよ。だって……。ソキがこれをはめてるのは、面白そうだからだよ。ソキが 人間に興味があるのはフィームも知ってるでしょ? これをはめて捕まったフリしてれば、 人間の傍にいても不自然じゃないから……」  本音だった。これまでシガツは嫌な命令なんてしなかったし、本当に捕まってるわけ じゃないから、嫌になれば逃げてしまえばいい。  そんなソキの気持ちが通じたのか、フィームはニヤリと笑い、頷いた。 「つまり人間を騙して遊んでいるのか。それも面白いかもしれないな」  人間に使われるなど、許せる筈もない。だが捕まったフリをして急に逆らったら人間は どんな顔をするだろう。  きっとそんな事を考え、それを想像してフィームはニヤついているのだろうとソキは 思った。  案の定フィームはこんな提案をしてくる。 「よし、じゃあ人間にバラす時はオレも呼べ。人間がどんな顔をするか見たいから」  だけどソキはそれに頷けなかった。 「いつになるか分からないから。今のところ嫌な命令とかされてないからしばらくは 捕まったフリして人間の近くで遊びたいもん」  よほど嫌な命令をされない限り、ソキはそれにしたがうつもりだった。こんな チャンスは滅多にない。次に会う風使いがシガツのように力量不足とは限らない。迂闊に 近づいて本当に捕まってしまうかもしれない。  そう思うと身体が震えた。 「そうか。じゃあいいや」  面白そうではあるものの、待つのは嫌いなフィームはころりと意見を変える。  こんな風にカティルの首飾りも興味をなくして持ってっていいぞって言ってくれれば いいのにと、ソキは思ってしまった。  シガツが人間の家へと入って行くのを見届けて、ソキはふわりと空高く飛び立った。 途中からシガツに付いて歩くように低い場所を飛び続けていたから、現在地がいまいち 分からなくなっていた。  高い場所から景色を見渡し、たいして遠くに行っていない事に気づいた。 「人間って大変なんだなぁ……」  シガツの昨日の様子を思い返し、そう呟く。ソキならばヒョイと越えられる場所も とても苦労していた。だからたったこれだけの距離なのにあんなにも時間がかかったの だろう。  今度から、人間の道も気にしながら飛んでみよう。  そう思いながら道を目で追う。人間にとって道はとても歩きやすいものらしいから、 これからシガツと共にあるならそれは必要になってくるだろう。  そうして色んな道を眺めていると、遠くから覚えのある恐ろしい風を感じた。  フィームが近くにいる。  シガツに伝えるべきか、一瞬迷った。けれど知らせに行って一緒にいるところを フィームに見つかればきっと警戒されてしまうだろう。  フィームもソキの気配に気づいたのだろう。すぐに彼女の元へとやって来た。 「まだこの辺りにいたのか、ちび」  別段怒っているようではないが、だからと言ってソキがここにいる事を歓迎している わけでもない。  ソキは頷き、口を開いた。 「なんだか面白そうだから」  楽しい事が大好きな風の精霊の、最もそれらしい理由だった。  ただ、個々によって楽しいと思う事が違うから、ソキの言い分に特に興味を示さず フィームはただ「ふうん」と唸っただけだった。 「フィームは、昨日のあれをあそこに置きに来たの?」  何の気なしに、そう訊いてみる。  フィームの風の影響か、普段髪が邪魔になるように顔にかかる事はないのに、今日は なんだか気になってかきあげる。そしてもう一度フィームへと顔を向けると彼の形相が 変わっていた。 「お前、それ」  恐ろしい顔で腕を伸ばされ、ソキは無意識に逃げ出そうとしていた。しかしフィームの 風に腕を捕らわれ、彼の元へと引き寄せられてしまう。  なんで急に。何かフィームの気に障るような事を言ってしまった?  怯えながら彼を見ると、フィームは彼女の手を取り再び口を開く。 「これ、誰にやられた。……昨日の二人のどちらかか?」  ソキの指にはまったリングを示し言うフィームを見て、彼の怒っている理由が分かり ソキはホッとした。 「違うよ。捕まってないよ。ホラ」  そう言うとソキは自らの手で指輪を外してみせた。  もし契約の指輪が有効ならば、契約者である風使い以外はその指輪を外す事は出来ない。 もし無理に外したら外した者も外された精霊も死に至ると言われている。  だから指輪を外す事で本当に捕まっていないのだとフィームに示してみせた。  そう、シガツはソキを捕まえたと思っているようだったが、実際はソキは捕まった フリをしていただけだった。 「ならばなぜ、そんな物をはめている」  怒りは治まったものの、納得がいかないといったふうに眉を寄せフィームが呟いた。  誇り高い精霊が人間に使役されるなど、許せない。  そう言わんばかりに忌々しげにソキの手の中の指輪を睨みつける。 「貸せ、オレが壊してやる」  そう言われ、ソキは慌てて指輪を隠すように握りしめた。 「ダメだよ。だって……。ソキがこれをはめてるのは、面白そうだからだよ。ソキが 人間に興味があるのはフィームも知ってるでしょ? これをはめて捕まったフリしてれば、 人間の傍にいても不自然じゃないから……」  本音だった。これまでシガツは嫌な命令なんてしなかったし、本当に捕まってるわけ じゃないから、嫌になれば逃げてしまえばいい。  そんなソキの気持ちが通じたのか、フィームはニヤリと笑い、頷いた。 「つまり人間を騙して遊んでいるのか。それも面白いかもしれないな」  人間に使われるなど、許せる筈もない。だが捕まったフリをして急に逆らったら人間は どんな顔をするだろう。  きっとそんな事を考え、それを想像してフィームはニヤついているのだろうとソキは 思った。  案の定フィームはこんな提案をしてくる。 「よし、じゃあ人間にバラす時はオレも呼べ。人間がどんな顔をするか見たいから」  だけどソキはそれに頷けなかった。 「いつになるか分からないから。今のところ嫌な命令とかされてないからしばらくは 捕まったフリして人間の近くで遊びたいもん」  よほど嫌な命令をされない限り、ソキはそれにしたがうつもりだった。こんな チャンスは滅多にない。次に会う風使いがシガツのように力量不足とは限らない。迂闊に 近づいて本当に捕まってしまうかもしれない。  そう思うと身体が震えた。 「そうか。じゃあいいや」  面白そうではあるものの、待つのは嫌いなフィームはころりと意見を変える。  こんな風にカティルの首飾りも興味をなくして持ってっていいぞって言ってくれれば いいのにと、ソキは思ってしまった。

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