伯爵様サイド その5  俺の身体は歓喜に震えた。 「うわ。君が転生仲間だなんて。ますます運命かよ」  嬉しい。けど恥ずかしい。思わず頭を抱えてしまう。女性向けの物語……なんて 誤魔化して話してたケド、転生仲間って事はバッチリ俺がアニメオタクだってバレる わけで。しかも元は乙女ゲーのアニメ。  そんな俺の戸惑いに気づいているのかいないのか。 「あの。『デジ・スト』はアニメではなく乙女ゲーですわよね?」  メリルが可愛らしく首を傾げ、尋ねてくる。 「あれ? アニメ化したの、知らない? まああんまり評判は良くなかったけど」 「そうなんですの?」  好きな女の子にそんな風に疑問符を投げかけられれば、喜んで答えるしかない。 「そう。アニメは王子ルートをメインに他のキャラのエピソードも盛り込んだオリジナル だったんだけど、ワンクールなのにあれもこれもと取り込んでたからアニメから入った 人には訳分かんない感じで不評だったんだ」  うっかり滔々とウンチクの様に語りそうになるのを頑張って短くまとめる。  ちなみに俺もアニメから入ってゲームも購入。設定資料集とかその他諸々買い集め ましたとも! 「けれど伯爵様はそのアニメがお好きだったのでしょう?」  あ、俺の話ちゃん流さずに聞いてくれてるんだ。イイコだなぁ。  そんな可愛いメリルを見てると、ふと欲がわいてきた。 「ごめん。その伯爵様ってのやめてもらえる? 形だけとはいえ夫婦になったんだからさ、 名前で呼んでよ」  怖がらせないよう笑みを浮かべ……ぐあーっ。恥ずかしいっ。何を言ってるんだ 俺はっ。 「はい。えーと……。サウス様……?」  コテンと首を傾げ、まっすぐにこちらを見るメリル。  ぐは。鼻血吹きそう。  すぐさま顔を背け、必死にそれを耐える。 「やっべ。マジ可愛い。どうしよ。俺コレ我慢出来んの? やっぱ伯爵様呼びで距離作って 自制心保ったほうがいい? ケドせっかくなら名前で呼んでもらいたいよな?」  ブツブツと声に出てたなんて、気づいてなかった。  ケド、ほんと可愛い。しかもこんな可愛い子が俺の嫁さん。やっぱ運命だよな?  あーでも手は出せない。でもキスくらいなら……。いや無理無理。こんな可愛い子 しかも嫁さんにキスして、それだけで済むはずがない。  そんな事ぐるぐる考えてたら、メリルが真面目な顔をして訊いてきた。 「前世の話で逸れてしまいましたが、サウス様はどうしてわたくしと子を成すことが 出来ないのですか?」  そうだ。ちゃんとメリルにも話して、分かってもらわなければ。  大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから俺はメリルの方を見た。 「あー。興奮して言葉が乱れてしまった。すまない」  前世ならともかく、今のこの世界でしかも伯爵という爵位を持っている俺が、あんな 言葉を使うものじゃない。反省。  だけどメリルは、ふるふると首を振って優しく言ってくれた。 「夫婦になったんですもの。二人きりの時くらい素のままで構いませんわ」  ぐあ。ふうふ! あーもう、なんでこうメリル、可愛いんだ?  けど、そういえば。 「そういう君は、ほとんど変わらないね?」  前世が日本人なら、もっとくだけた口調で喋っても良さそうなもんだけど。 「……そんな事はありませんわ。あんなふうに取り乱すことなど他の方の前ではありません でしたもの」  え? 俺の前だから取り乱した? 俺がメリルの夫だから?  ああー。胸がジーンとくるってこういうのを言うんだろうなぁ。  今日結婚したばかりなのに、彼女には何一つ夫として優しく接してないのに、俺が 夫だから素が出せた? 気が許せた? ……う、嬉しい……。  しばらくこの感動をかみしめて……と思ったんだけど、そうは問屋が卸して くれなかった。 「そんな事よりも、何故子供を持てないのか、その理由をお話し下さるのでしょう?」  本題を忘れてなるものかとばかりに、メリルがぐぐっと詰め寄ってくる。……詰め 寄ってくるのは良いんだけど……。  む……胸の谷間が見え……!  メリル、今自分がどんな格好してるのか忘れちゃってる? スケスケな上に胸元広く 開いてるネグリジェ着てるんだよ? いくら上にガウン羽織ってても、こんなに 近づいたら合わせたガウンの隙間から胸が見え……。やわらかそう。白いし、ピンク だし。  いやいや見ちゃダメだろ俺。見るな俺。  あーでも本当だったらあの胸に触れたのに。しゃぶれたのにっ。  だ、だから考えるな俺。見ちゃダメなんだってば俺。  無防備なメリルはこんな真面目な話してる時に俺がそんなヨコシマな目で見てるなんて 思ってないんだから!  とにかく冷静になれ冷静に……。  深呼吸して気持ちを落ち着かせる。純真無垢なメリルは、じっと俺が口を開くのを 待っている。  俺はもう一度深呼吸をしてから。言い訳を始めた。 「もう一度言っておくけど、サンローズへの思いは恋じゃない。まあ、初めて見た時は めっちゃ顔が好みで、カラーリングが金髪碧眼だったら言うことなかったににって 思ったりはしたけど」  そう、めっちゃ好みなんだ。金髪碧眼で、サンローズと同じ顔をした君。メリル。  言ってて恥ずかしい。けど、彼女の反応も気になってチラリと目をやる。  だけどメリルは、ムッとしたような顔をして言った。 「……つまり、サンローズに操を立てていらっしゃると?」  は? へ? 待て待て。 「違う違う。……もしかして、気づいてない? まあ、ありえるか。何度も言うけど 間違ってもサンローズをそういう目で見てはない。ありえない。アニメを見てた時も どうにか彼女の想いを叶えて王子と幸せになってくれないかと思ってたくらいだ」  慌てて訂正する。同じ転生者だから、てっきり気づいてるんだとばかり思っていた。 「わたくしが、何に気づいていないと……?」  ほんの少しイラついた様に、メリルが言う。本気で気づいていないんだ。  だから俺は、ちゃんと伝わるようにと真剣に彼女を見た。 「サンローズは、俺と君の娘だ」

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