せっかくだからレース糸で魔方陣を編んでみる事にした。 その6  床を拭き終わった後、再びクロモはわたしの編んだレースを手に取った。 「うん。良く編めてる」  褒められて心が浮き立つ。 「そ、そうかな。まあ魔法と違って休み休み編んだりとか出来るから、集中力が切れたら 一旦置いといて次の日に続きを編むとか出来るからね。まあその分時間はかかっちゃうん だけどさ。クロモの魔法みたいにめちゃくちゃ早く編むってのも無理だし」  照れながら言うわたしに、クロモは優しい笑みを浮かべてくれる。そして、ふと 思いたったように言った。 「……これが魔法に応用出来たら、面白いかもしれないな」 「応用?」  言ってる意味が分かんなくて首を傾げる。そもそもこれは魔方陣をレース編みに 応用したもので、それを魔法に応用しても元の魔方陣が出来るだけだと思うんだけど。  そんなわたしの疑問に答えるようにクロモはレースへと手をかざした。 「魔力を持っていても正確に魔方陣を編めない者もいる。この糸に魔力を注いでもし 魔法が発動するようなら……」  わたしの編んだレースがパァッと光を放った。  え? わたしの編んだレースが魔方陣代わりになるの? ドキドキしながらその様子を 見守る。  けど、そのレース編みから水滴が浮き上がる事はなかった。 「……残念。ダメみたいだね。クロモの言うみたいにわたしのレースで魔法が使えたら カッコ良かったのに。魔力がないから実際にわたしが使えるわけじゃないんだけど、 それでもわたしが編んだレースで魔法が使えたらきっとめっちゃ嬉しかっただろう なぁ……」  魔法なんて無い世界で生まれ育ったわたしだけど。ううん、だからこそ魔法には とっても憧れる。この世界にいたらいつかわたしも魔法が使えるようにならないかなって 思うくらいに。だから、間接的にでも魔法にかかわる事が出来たならすごく嬉しいのに。  がっかりするわたしを見てクロモが慌てて頭を下げた。 「悪い。ぬか喜びさせた」  クロモが悪いわけじゃないのは分かってたから、わたしも慌てて首を振る。 「そんなこと。クロモだってそうなったらいいなって思ってたのにダメだったから、 ガッカリでしょ。仕方ないよ。何か足りないものがあったのかもしれないし」 「足りぬものか……」  クロモがじっとわたしのレースを見る。  その時ふと、外から陽気な気配が近づいて来た。 「可愛いクロモちゃんと妹ちゃん。元気にしてる〜?」  相変わらずお姉さんは前触れもなくやって来る。  お姉さんが嫌いなわけじゃないけど苦手なんだろう、クロモは外していたフードを 目深に被った。 「お姉さんも元気そうでなによりです」  こんな会話をするとまるで久しぶりの再会のようだけど、お姉さんは二、三日おきに この家に来ている。 「んふふ。今日はね、妹ちゃんにこれはどうかなと思って持って来たのよ」  語尾にハートマークを付けてお姉さんがカバンの中から一枚の服を取り出し、広げた。 「バッ……っ。なに考えてんだ姉さんっ」  焦ったようなクロモの声。どうしたのかな?  お姉さんが取り出したのは薄手のカワイイワンピース。たぶんヒザ上十センチくらいの キャミワンピっぽいデザイン。  ……て、あれ?  この世界って、旦那様以外に足見せちゃイケナイんだよね? ていうかそもそも、 下着が……。 「夜にこれ着てクロモを誘惑してね? そして早く甥っ子か姪っ子を抱かせて ちょうだい?」  ズドンと頭が噴火して顔が真っ赤になった。  ニコニコとお姉さんは悪気がなさそうだけど。 「人んちの事よりまずは自分が旦那と子作りに励めば良いだろう。夫婦仲が悪いわけじゃ ないんだし」  怒ったクロモがお姉さんの持ってた服をパシッとはたき落とす。 「あら、毎晩頑張ってるわよ。けどなかなか出来ないのよねぇ……」  ふうっとお姉さんはため息をつく。そしてキッとクロモを睨むとサッと指を突き付けた。 「そもそもクロモちゃんがしっかりしてればこんなおせっかいは必要ありませんのよ。 口出しして欲しくないなら……」 「姉弟ゲンカはやめて下さい。その、お姉さんとクロモがケンカしてると、悲しいです」  兄弟ゲンカは兄弟のコミュニケーションの一つだなんていう人もいるけど、実際 お姉さんとクロモもそれっぽいところあるけど、それでもつい間に入って止めに入る。  すると気づいたようにお姉さんがわたしの胸元に目をやった。 「あら、それは……?」 「あ、このネックレス、クロモに買ってもらったんです」  買ってもらって以来、特に出かける用がなくてもこのネックレスを身に着けるように なっていた。 「……オレ達にはオレ達のやり方がある」  ポツリと、興奮していたからか頬を赤く染めたままクロモが言った。 「……そうね。悪かったわ」  ネックレスを見て、クロモなりにわたしに気を使ってくれている事に気づいたのか、 お姉さんはにっこりと笑って意見を取り下げてくれた。

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