今度はみんなで神社へ行こう その1  屋敷に帰るとにこにこ顔の棗ちゃんが出迎えてくれた。 「調べ物の方はいかがでしたか、姫様」  言葉の内容は調べ物についてだけど、たぶんきっと透見と上手くいったのかを訊きたいんだろう。 女の子は恋バナ好きだもんね。 「それが残念ながら、大した収穫がないのよ〜」  困ったように笑ってみせると、透見もそれに頷いてくれた。  例の頁の件は、帰る前に透見に口止めした。『透見』っていう単語が本当に正しいのか自信ないし、 それだけじゃ意味が分からないからもうちょっと何か分かるまでは皆には言わないでおこうよって 言って。  今の段階でその事を言っても「無駄に園比さんにヤキモチ妬かれちゃいますね」と透見も賛成して くれた。  夕食の席で同じように収穫が無いことを告げると園比が待ってましたとばかりに言う。 「やっぱ引きこもって調べてるより〈唯一の人〉捜して街を歩いた方が良いよ。今まで透見が何年も 調べても特徴とか分かんなかったのに、今更調べてもすぐに分かるとは思えないもん」  どうだ、と言わんばかりの顔。つい乾いた笑みを浮かべてしまう。まあ、調べ物は口実だしね。 「けど小鬼が闊歩している今、姫様をウロウロ歩かせるのは危険じゃない」  給仕をしながら棗ちゃんが顔をしかめる。 「いや、それが小鬼の姿が無いんだ」  棗ちゃんの言葉に剛毅が肉を頬張りながら、ちょっと考えるような仕草で言った。それを引き継ぐ ように戒夜が口を開く。 「お二人が図書館にこもっている間、我々は手分けして街を巡回していたのです。しかし誰も小鬼の 一匹も発見出来なかった」  どういう事だろう? えーと、小鬼はわたしを捜して暴れ回るって設定だったよね、確か。 「この間小鬼を倒してから、新しい小鬼がまだ来てないとか?」  わたしの言葉に剛毅が首を振る。 「この間全員倒せた訳じゃないんだ。なんせ相手は『空飛ぶ赤鬼』だから、姫さんがいなくなった後、 何匹か空に逃げられちまってるんだよ」  んー、悪い。と言いながら剛毅が朗らかに笑う。笑ってる場合じゃないと誰もつっこまないのは、 剛毅の事を良く分かってるからだろうか。 「考えられるのは、姿を隠し姫が現れるのを待っているのか、仲間を呼びに行くため島を離れている のか……」 「きっと今島にはいないんだよ。だから姫様が自由に動けるチャンスじゃん? 図書館になんて 籠もってないで今の内に僕らと街に捜しに行こうよ」  戒夜の言葉が終わらない内に園比が勢い込んで言う。今にもドン! とテーブルに手を突きそうな 勢いだ。 「しかし……」  渋い顔をする戒夜だったけど、ちらりと透見の様子を見る。それまで黙ってみんなの話を聞いていた 透見は、それに応えるように口を開いた。 「姫君はどうされたいですか?」  てっきり透見も自分の意見を言うんだろうと思ってたわたしは、自分に振られてびっくりした。 「あ? えーと……」 「わたしは姫様には安全な場所で透見と調べ物しててくれた方が良いと思うけど」  困るわたしを助けてくれるように棗ちゃんが提案してくれたんだけど。 「だが園比の意見も一理ある。調べ物が遅々として進まないのであれば、動ける内に街中を捜すのも ありではないか?」  何故図書館で透見と調べ物をする事にこだわるんだと言いたげに、戒夜が棗ちゃんに冷たい視線を 向けた。  なんか棗ちゃんが責められてるみたいで、申し訳なかった。棗ちゃんは単にわたしに協力して くれてるだけなのに。 「オレも今の内に捜すのありかなって思うよ。小鬼が出没しだしたら、また図書館に籠もればいい じゃん?」  剛毅までがそう言う。そうなるとわたしも棗ちゃんも「それでも図書館」とは言いづらくなって しまった。もっと何か手掛かりが掴めてたら言えてたかもしれないけど、何も報告出来てないこの 現状じゃ、ちょっと難しい。  そこでふと、図書館で軽く思いついた事を思い出した。 「えーと、神社にも小鬼はいなかったんだよね?」  確認の為、みんなの顔を見渡すと園比がきっぱり言った。 「いなかったよ。あそこは二度も小鬼に遭遇した場所だから、みんなで時間差で行ってみたけど、 いなかった」  透見以外の他のみんなもそれに頷く。  うん、それなら。 「じゃあ、明日はみんなで神社に行かない?」  わたしの提案にみんな驚いた顔をした。  翌日、みんなでザクザクと歩いて神社へと向かう。 「良いですか。小鬼の気配を感じたら即屋敷へと引き返しますからね」  渋い顔をして戒夜が言う。 「やっぱり今からでも姫様と透見は図書館に行って、わたし達だけで神社を調べるってのはどう?」  そう提案するのは棗ちゃんだ。  昨夜、神社に行こうって言ったわたしの言葉に透見以外は全員反対した。まあ、そりゃそうだよね。 わたしが神社に行く度に小鬼に遭遇してるんだから、警戒するのは当たり前。  けど、そんなわたしの意見に透見だけが味方してくれた。 「たしかに〈唯一の人〉に関する古い書物のほとんどは神社からの寄贈ですし、書物以外の資料が 神社に残っている可能性は否めません」  そんな透見の後押しもあったおかげで今日はみんなで神社に行く事になったんだけど、戒夜は やっぱり不満そうで棗ちゃんもちょっと不機嫌そうだった。  棗ちゃんにはあの後二人っきりになって話してみたんだけど、どうも納得してもらえなかったようだ。 「そんな他の人に遠慮してどうするんですか。こういう事は早めにガンガン行かなきゃ!」  図書館での調べ物も透見との関係も特に進展ないし、他の人達も同じ守り手なんだから一緒に 行動する機会を持った方がいいかと思って…というわたしの意見に棗ちゃんは怒ったようにそう言った。  だから今もやっぱりどうにか二人きりにしてくれようと、自分達が神社を見るから二人は図書館に…と 勧めてくれている。  棗ちゃん、イイコだなぁ。彼女がどうか好きな人と上手くいきますように。そう願ってしまう。

前のページへ 一覧へ 次のページへ


inserted by FC2 system