今度はみんなで神社へ行こう その2  ところで。今わたしの横を歩いているのは透見ではなく園比だったりする。そして案の定、棗ちゃんの 提案を軽く蹴り飛ばす。 「ダメダメ。姫様は今日は僕たちと神社に行くの。これ決定事項。ね、姫様」  そう言って園比はちゃっかりわたしの手を握ろうとする。  さすがにみんなの前で園比と手を繋ぐのは抵抗があってわたしは慌てて手を引っ込めた。けど、 さすがは園比。それを読んでたように更に手を伸ばしてわたしの手を掴んでしまった。 「姫様は方向音痴なんだから、迷子にならないように。ね?」  にっこり笑ってきゅっとわたしの手を握りしめる。 「いや、幾らわたしでもさすがにこの人数ではぐれる事はないと思うよ…?」  困った顔して園比にそう言ってみるけどやっぱ放してくれそうにない。 「当たり前です。姫が勝手にどこかへ行こうとしても誰かしら目に留めて声を掛けますから」  わたしを援護してくれてるのかバカにしてるのかよく分からない戒夜の言葉が後ろから掛かった。 うーん、考えすぎると悪い方に取っちゃいそうだから、ここは早めに良い方にとっとこう。 「そーゆー事だから……」  と、園比の手を離そうとするんだけど。 「えー、いーじゃん」  園比は放そうとしてくれない。 「園比さん?」  ふと、冷気が漂ってきそうな声が聞こえてきた。振り返ると、いつものように笑ってる筈なのに なんか黒いオーラが漂ってそうな透見がそこにいた。 「姫君はそこらの女性と違うのですから、気軽に触れるのは遠慮してもらえませんか?」  優しげな声、の筈なのに妙に怖さの混じった声で透見が言う。けど園比はまだ名残惜しそうに わたしの手を掴んでいる。 「はは。園比、透見を怒らすと後が怖いの知ってるだろ。今の内に放しとけって」  剛毅が楽しそうに笑いながら言う。 「それに姫さんは〈救いの姫〉なんだから、透見の言う通りあんま気軽に触れて〈唯一の人〉の機嫌 損ねちゃったら困るし?」  とか言いながら剛毅、その笑顔ちっとも困ると思ってないでしょ。どっちかと言うと楽しんでる ように見えるんだけど。 「園比」  それでも放そうとしない園比に、戒夜も咎めるように名前を呼ぶ。  さすがにみんなから責められて、諦めたように唸ると園比は手を放してくれた。  と、すかさず園比とわたしの間に棗ちゃんが割り込んでくる。 「あ」  園比が不満の声をあげたけど、棗ちゃんがわたしの腕を組みながら一言。 「女同士で歩くから」  あっちに行けとばかりにしっしと園比に手を振ってみせた。  そんな訳でわたし達の前を戒夜と剛毅が、後ろを透見と園比。そして横には棗ちゃんって形で てくてく歩く事になった。  ちょっとして棗ちゃんがヒソヒソ声で耳打ちしてきた。 「昨日収穫無かったって言ってたから透見との事も進展なかったのかと思ったら、ちゃんと進展してたん ですね」 「は?」  棗ちゃんの言ってる意味が分かんなくて、ついそう聞き返してしまった。透見と進展…してるの?  考えてみてもやっぱりなんで棗ちゃんがそう思ったのかが分からない。 「やだ姫様ったら無自覚ですか? もしかして色恋に鈍いほう?」  う。棗ちゃんの言葉にちょっとグサリとくる。まあ、メンドクサイって恋愛から逃げてたわたしに、 現実問題としてそのテの経験値がゼロに近いのは否定出来ませんが。  でもでも、これは乙女ゲーの夢だし、これまでかなり色々な乙女ゲープレイしてきたんだから、 架空のそーゆーのは結構分かる気になってたんだけどなぁ。 「どうして進展してるって思ったの?」  とりあえず、訊いてみる。わたしどこを見落とした?  すると棗ちゃんはますますヒソヒソ声でわたしにくっついてくる。 「だってさっき透見、園比にヤキモチ妬いてたじゃないですか」 「え?」  さっきの園比に対しての透見の態度を思い出す。確かにちょっと怖い感じで怒ってはいたけど……。 「あれって〈救いの姫〉に失礼のないようにって意味でしょ?」  透見は伝説の姫君に心酔してるから、園比の気安さは許せなかったんだと思うんだけど。 「確かに元からそういうところはありましたけど、それだけじゃ透見、あんな風に怒りませんよ。 注意はしてもあんな態度はとりませんって」  棗ちゃんに言われ、だんだんそんな気がしてきた。思い出してみれば最初の頃、他の人がわたしに 対して失礼な態度とっても、注意はしてもあそこまで怒んなかった気がする。 「てことは、ほんとにヤキモチ?」  言葉に出してカァっと顔が赤くなった。自然と顔がニヤケてきて慌てて手で隠す。 「ですよですよ。本人に自覚があるかはまだ分かんないけど、あれ確実に姫様の事、意識し始めて ますって」  声を顰めてキャッキャと騒ぐ棗ちゃん。  あああああ、もし本当にそうだとしたら、嬉しいかも?  頭の中がフワフワと、なんていうか花が咲きそうな勢いで顔もニヤニヤが止まらない。 「楽しそうに何の話してんだー?」  あんまりにもきゃあきゃあと、でもヒソヒソと二人で話してたからか、剛毅が仲間に入りたさそうに 話しかけてきた。だけどまさか剛毅に話すわけにもいかない。 「内緒ー。女同士の秘密でーす」  棗ちゃんもそう思ったのか、楽しそうにそう答えて、わたし達はくすくすと笑いながら歩いた。  神社の近くまで来ると、透見がスッとわたしの前へとやって来た。 「姫君。念の為、小鬼の目から姿を隠す魔術をかけておきますので、こちらへ」 「えーと、前にかけてもらった姿を消す魔術? てことは声とか出さない方が良いの?」  術をかけてもらう前に訊いておく。喋っちゃ駄目なら色々と気を使っちゃうから。 「そうですね。小鬼が出て来たら、出来るだけ声は出さないで下さい。けれど小鬼の現れる前から気を 使わなくても大丈夫ですよ。今日は棗さんもいますし、姿さえ見えなければ気配は我々のものと 混ざって多少は誤魔化せるでしょう」  棗ちゃんがいるしってのは、女性の声が聞こえても棗ちゃんの声って勘違いしてくれるって事だろう。 「前回は緊急でしたので略式の術でしたが、今回はもう少し丁寧にかけますね」  そう言うと透見は呪文を唱え始めた。前回同様ふわりと何かがわたしを覆うのが分かる。その後、 それを定着させる為なのか透見がわたしの頭から肩、腕から手の先それから腰から足、つま先の順に 触れていった。  魔術を掛ける為って分かってるのに、優しい手で触れられてついドキドキしてしまう。 「なんだよ透見。僕には手を繋いだだけで姫様に失礼とか言ってたクセに、自分は姫様の身体中触って、 ずるいー」  園比の声にますますわたしは赤くなってしまった。 「馬鹿な事を言わないで下さい。これは魔術の一環であって園比さんの様な下心ではありませんからっ」  いつになく慌てた様子の透見の声にびっくりして彼を見てみると、彼も顔が真っ赤になっていた。  これってちょっとは意識してくれてるからだよね?  さっきのも、棗ちゃんの言う通りヤキモチだったとしたら、うん、結構透見の好感度、上がって きてるのかも。  そんな事考えながら透見を見てたら、ばっちり目が合ってしまった。お互い照れ笑いの様な顔を してしまう。  それを見ていた園比がまた何かを言おうと口を開きかけたけど、それを封じるように戒夜が眼鏡を 押し上げながら口を開いた。 「園比。お前は姫をそこらの女と同列に考えすぎだ。それに透見はお前と違って下心など有るわけない だろう」  たぶん幼馴染みでずっと一緒にいたから戒夜は透見の真面目さを知ってるんだろう。それとも 〈救いの姫〉に対する神聖な気持ち?  そう思うとちょっと、やっぱりわたしの思い込み? と思っちゃうんだけど、でもうん、棗ちゃんと 自分の勘を信じてみよう。透見はきっと、ちょっとずつだけどわたしを意識してくれている。  そんな事考えている内に神社の前まで着いてしまった。 「今んトコ小鬼の気配はないみたいだな」  ニコニコと剛毅が言う。 「そうだな。だが油断は禁物だ」  戒夜がするどい目つきで辺りを見渡す。 「まあ、気配の無い内に神社に行きましょう」  棗ちゃんの言葉を合図にみんな石段を上り始めた。  何度来ても思うけど、階段って疲れる。運動不足が祟って息は切れるしだんだん足が上がらなく なってくる。  それでもがんばって上って来ると、いつもの懐かしい風景が眼前に広がった。  この風景を見ていると、ずっとぼーっと眺めていたくなるけど今日の目的はこっちじゃないから ダメダメ。  疲れたから休憩とか言ってそっちのベンチに腰掛けたりしない内にわたしは神社の拝殿へと足を 向けた。  以前にも透見は調べ物をしに来ていたからか、宮司さんに会うとあっと言う間に拝殿の中へ入る 事を許してもらえた。  それとも田舎の神社って結構簡単に中に入れてもらえるものなのかな。そういえば子供の頃少しだけ 行ってたソロバンの塾は小さな八幡様の境内の側の小屋でやってたっけ。  だから神社の建物の中に入ったは事なかったけど、お賽銭箱が置いてある階段の所とかは結構気軽に 座ってジュース飲んだりアイス食べたりしてた記憶がある。  まあそれはともかく、みんなで神社の中へと入り、辺りを見渡してみた。こういう場所に入る 機会ってそうしょっちゅうはない。わたしの記憶の中では厄払いをしてもらう時に入ったくらいしか 覚えがない。だからつい珍しくてキョロキョロしてしまう。 「で、どういうの探せばいいわけ?」  剛毅も興味深そうに辺りを見回しながらそう言った。 「ええっと……。絵とか彫刻とか?」  わたし自身もはっきり分かってるわけじゃないのであいまいな言い方になっちゃうけど。  ぐるりと見渡し、天井近くに掛けられている古い絵を見つけ指さす。 「ああほら。あーゆーのとか」  みんながいっせいにそちらを向く。  その絵はかなり古いんだろう、所々剥げかけていて色も薄くなっている。けど、何が描いて あるのかはちゃんと分かる。といってもわたしの知識不足のせいでそれが飛鳥時代とかの服を着た 女の人ってくらいしか分かんないんだけど。 「これは〈唯一の人〉とは無関係のようですね。おそらく天照大御神の絵姿を奉納したものでしょう」  眼鏡をクイと上げて戒夜が言う。 「大昔の〈救いの姫〉の姿って可能性は?」  園比がまじまじとその絵を見ながら戒夜に訊いた。 「確かに姫も神聖視されてはいるが……。透見、これまで文献で姫を神と表記されていた事は?」 「いいえ。姫君はあくまで〈救いの姫〉と。救世主である〈唯一の人〉も神という書かれかたは 一切されていません」  透見は静かに、でもきっぱりと答える。 「ではやはり違うだろう」  そう言い戒夜は絵の一部を指さす。そこにはうっすらとだけど草書でナントカ大神とかなんとか 書いてあるのが読みとれた。 「んー、じゃあ神とか書いてない絵とか彫刻とか探せばいいって事か」  そう言いながら剛毅はキョロキョロと辺りを探し始めた。それを合図のようにみんな各々探し始める。 「こっちの絵は?」 「他にはえーっと……」  そう言いつつ探すけど、いまいちこれっていう物が見当たらない。 「ていうか、ここより宝物庫っていうか蔵っていうか倉庫っていうか……。とにかくそういう場所に 置いてるんじゃないか?」  拝殿の中には数える程しか絵や彫刻は見当たらない。しかもどれを見ても伝承に関係ありそうな物は ないもんだから、剛毅がそんな事を言う。 「小さな神社ですから宝物庫などという立派な物はございませんが、社務所の一部屋が物置代わりに なっていますのでそちらをご覧になりますか?」  そう言って人の良さそうな宮司さんが親切にわたしたちを案内してくれた。  みんなでゾロゾロとその部屋へ向かう。物置、というだけあってその部屋には色々な物がゴチャ ゴチャと置かれていた。 「こ、これはちょっと大変だね……」  なんせ本当に色んな物が置かれている。お守りや絵馬、破魔矢の在庫とか、お祭りに使うのだろうか 提灯や何かの飾りとか。  それでも躊躇してても仕方がない。とにかくみんなでゴソゴソと何かないかと探し始めた。

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