そういえば最近、最初からルート選択できる乙女ゲー増えたよね その2 「最初はなんとなく、だったの。理由を訊かれても困るくらい。昨日の夜、棗ちゃんと話してて 〈唯一の人〉かどうかの確認作業をしやすくする為にもみんなに話してみたらどうかって事になって 今に至るわけなんだけど、今色々話してて思い出した事があるの」  わたしの話をじっと聞いてくれている園比から、透見へと目を移す。それからみんなの顔も見て。 「透見に教えてもらったんだけど、図書館にある〈唯一の人〉の伝承を綴った本に魔術が掛かった頁が あるのは、みんな知ってる?」  わたしの問いに戒夜が頷いた。 「共に〈救いの姫〉の守り手となると誓った後、皆で図書館へ行き、透見に見せてもらいました」 「あの、わけ分かんないページだよね?」 「ああ、日本語が書いてあるってのは分かるのに、内容が分かんなくなるあの本か」  口々に思い出したように喋る。 「実はね、透見には口止めしてたんだけど、ちょっとだけあの頁の文字が見えたの」  その言葉にみんなざわついた。これは棗ちゃんにも言ってなかった事だから彼女もびっくりしている。 「何故我々に隠していたのですか?」  戒夜がキビシイ目でわたしを見る。いつもならここで透見がかばってくれそうなものなんだけど、 今日は透見自身がショックを受けているせいか、黙ったままだ。  わたしは大きく息を吐き、それから吸った。 「確信がなかったから、だよ。本当にそう書いてあったのか。そもそもそれが何を意味しているのか」 「で、何て書いてあったの?」  園比が珍しく真顔で訊いてくる。だからわたしも、真剣に答える。 「透見」  言葉にした途端、透見の顔が強ばった気がした。戒夜や剛毅は予想していたのだろう、特に驚く事は なく頷き、そして園比は面白くなさそうに口を尖らせた。  ていうか、もしかして透見、嫌だった?  ザッと音を立てて、顔が青ざめた。  告白してからの透見の反応は、どう見ても喜んでない。そんでもってこの反応を見ると、どう 考えても嫌がっているようにしか思えない。  あああー。やっぱそうだよね。こんなおばさんに「貴方がコイビトだったかもー」なんて言われても 引くよね。困るよね。例えそれが敬愛する姫君であっても、〈救いの姫〉として心酔するのと 異性として好きになるのとは別問題だもの。  どうしよう、と思って青ざめてるわたしとは反対に、棗ちゃんはぱあっと顔を輝かせ、嬉しそうに 叫んだ。 「決まりじゃないですか! やっぱり透見に間違いないんですよ!」  早く〈唯一の人〉を見つけたいからなのか、それともガールズトークの恋バナのノリなのか、 棗ちゃんはわたしに駆け寄り両手を握りしめる。そして『良かったね』と言わんばかりにぶんぶんと わたしの両手を振った。 「いやいや。ちょっと待って。だからまだ確定じゃないんだってば」  焦って棗ちゃんに言う。わたしや透見の顔色には全く気づいていないみたいだ。 「なんでですか? 透見って書いてあったんでしょ?」  慌てて止めるわたしに不思議そうに棗ちゃんが訊く。 「うん。それ聞いたら透見で確定でいいんじゃないかって思うよなぁ」  剛毅も〈唯一の人〉が見つかって良かったと言わんばかりの笑顔で頷いている。  だけどそれを聞いて園比が慌てて口を挟んだ。 「姫様が確信してないんなら名乗っちゃダメだよっ。だいたい僕等だって候補だったってのに、 どうしてそう剛毅は透見に譲っちゃうのさっ」  園比はすごく〈唯一の人〉に興味があるみたいで、少しでも可能性があるなら諦めたくないらしい。  そんな園比の言葉に珍しく戒夜が頷いた。 「園比の言い分ももっともだ。確信できるまで姫はまだ名乗らないほうが良い。棗も剛毅もはやらない ように。時に姫、透見かもしれないと思った理由は分かりました。では透見と確信出来ない方の理由を お聞かせ願えますか?」  確信出来ない理由?  まさかそんな事を訊かれるとは思ってもなかったので、ちょっと戸惑った。ちらりと透見を見ると、 ショックな事に視線を逸らされてしまった。  ああ、やっぱり透見嫌なんだ?  そう思うと泣けてくる。やっぱりみんなに言うの早すぎたんだ。 「姫?」  なかなか答えないわたしに戒夜が怪訝そうに眉を寄せた。 「確信出来ない理由は……」  蚊の鳴くようなか細い声で告げる。 「透見がわたしを好きか、自信がないからだよ」  あんな風に視線を逸らされたり顔を強ばらせたりされると、自信なんて出るわけがない。  だけどわたしの言葉に意外にも透見が慌てたように言った。 「そんな事はないです。私が姫君を嫌うなど、ありえません」  本当なら嬉しい言葉。でもひねくれたおばさんのわたしは、素直には受け取れない。 「うんでもそれって、〈救いの姫〉を崇めちゃうってイミの好きだよね? 恋愛対象としてはまだ 無理でしょ?」  ムリで当然、なんだろうけど。わたしだって若い頃は自分の親と変わらない歳の男の人を見て 恋愛感情なんてわかなかったし。 「それは……」  言い淀む透見の横から、ぱっと園比がわたしの方へと出てきた。 「僕は見れるよ。姫様の事、ちゃんと女の人として見てるし、姫様が許してくれるなら、キスだって 出来るよ」  必死に訴えかけてくる園比。健気だなぁ。 「うん、ありがとう園比。でも園比の場合、それはわたしだからじゃなくて女の人みんなにでしょう?」  わたしの言葉に同意するように棗ちゃんも頷く。 「そうね。園比の場合、姫様とキスした直後でもわたしがいいよって言ったらわたしにキスしかねない ものね」  それを聞いて剛毅が豪快に笑い声をあげる。 「確かに。園比は許容範囲広いもんなぁ」  うーん。そうなのよねぇ。  みんながみんな園比の女好きに頷くもんだから、園比はすっかり拗ねちゃってぷっくり頬を 膨らませてしまった。  それでもわたしに向かって園比は訴えかけてくる。 「そりゃあ今は姫様が一番とは言えないけど。でももし本当に僕が〈唯一の人〉だったら、 ウワキなんてしないよ。本命がいるのに他の女の子に手を出すほどバカじゃないよ」  まあそれはそうあって欲しい。夢とはいえ、乙女ゲーの世界。両想いになってハッピーエンドの 後に浮気は勘弁してほしいもん。  そんな園比との会話を黙って聞いていた透見が、強ばった顔をして口を開いた。 「私は……。園比さんのような考えは持てません」  その言葉に、頭をガツンとやられた。頭が真っ白になった。薄々感じていた筈なのに、やはり 直接拒否の言葉を聞いちゃうとショックで悲しくなる。  そんなわたしを見た園比と棗ちゃんが何かを言いかけたけど、それを制すように透見も口を開いた。 「これまで恋愛とか女性とか、考えた事がないのです。ですから姫君だからどうこうという訳でなく、 恋愛感情がどういったものなのかというのが分からないのです」  うつむき、ゆっくりと語る透見。 「あー、確かに透見、ずっと伝承に夢中で女の子に目を向けた事なんてなかったもんなぁ」  剛毅がポリポリと頭を掻きながら言った。  そう言えば沙和さんと初めて会った時にも、初恋もまだみたいな事言われてたっけ。 「それこそ〈唯一の人〉だからじゃない? 姫様以外の女性に興味が無かったってのは、姫様一筋って 事じゃない」  嬉しそうに棗ちゃんが言う。うん。そう言ってもらえると少しは自信が出てくるんだけど。 「なんでだよ。〈唯一の人〉が……」 「黙れ園比」  反論しかけた園比をピシリと戒夜が止めた。 「我々があれこれ言っても仕方がない。最終的に判断するのは姫だ。今は当人達に任せておく方が 良いだろう」  当人同士って、わたしと透見の事だよね。そう思って彼を見ると透見もちょうどこちらを見ていて バッチリ目が合ってしまった。  気まずくてつい、目を逸らしてしまう。 「でもっ」  まだ言いつのる園比に、今度は剛毅がポンと肩に手を置き声をかけた。 「まあまあ、園比。まだ透見が〈唯一の人〉って確定したわけじゃないんだからさ。取りあえず透見が 本当に〈唯一の人〉かどうかしっかり確認してもらえばいいじゃん。それでもし違ったら次は園比が べったり確認してもらえばいいんだしさ」  剛毅の言葉に園比は口を尖らせつつ黙った。そしてちょっと考えた後、小さな声で呟いた。 「分かった。しばらくは姫様の事、透見に任せる。けど、もし透見が〈唯一の人〉じゃないって 分かったら、次は僕の番だからね」  ちょっと拗ねながらも、ねだるように園比が言う。  あああ、なんかこんな風に言われちゃうとほだされちゃいそうだよ。なんか本当に園比、わたしの事 好きなんじゃないのかって勘違いしちゃいそう。  けどでも取りあえずは透見って決めたんだから、透見に集中しなくちゃだわ。 「うんじゃあえーと、透見も良い、かな?」  恐る恐る透見に訊く。  ここで拒否されたら立ち直れなかったりするんだけど。  いつもの笑顔が消え、俯いたままだった透見はわたしの言葉にゆっくりと顔を上げ、真剣な顔で 頷いた。 「分かりました。と言っても正直どうすれば良いのかわかりませんが、しばらくの間姫君と行動を 共にいたしましょう」  透見の堅さに不安が募る。それでもなんとか透見ルート確定、かな。

前のページへ 一覧へ 次のページへ


inserted by FC2 system