クリスマスプレゼント  十二月二十四日、クリスマスイブ。恋人達の夜。  イルミネーションの輝く中、ご多分に漏れずわたしとかるくんもクリスマスデートの真っ最中。  豪華とはいかないけれど素敵なレストランでディナーの予定。  腕を組み、恋人達の群に混ざる。 「寒いね〜。雪、降るかなぁ」  空を見上げると、綺麗な星が瞬いている。 「雪は無理、かな。でも星が降ってくるかもしれないよ」  冗談めかしてかるくんが言う。  予約したレストランに向かいながら、ふと雑踏の中に見知った顔を見つけてギクリとした。それに 気づいたかるくんが、どうしたの? と首を傾げる。  うん、あのね……と言いかけたところであちらもこちらに気がついた。 「みつか」  険しい顔をしてこちらにやって来る。それを見てかるくんの顔も少し硬くなった。 「お兄ちゃん」  気がつかないでくれたならそれが一番良かったけれど、気がつかれたからには紹介しないわけには いかない。 「かるくん。これ、うちの兄」  目の前まで来て仁王立ちしているお兄ちゃんを紹介する。 「で、これがかるくんよ。前に話したよね? お兄ちゃん」  恋人がいることは前からお兄ちゃんには伝えていた。対面するのは初めてだけど。 「はじめまして、お兄さん」  かるくんが頭を下げ、笑顔を向ける。かるくんにもお兄ちゃんのことは話した事があるから、ある 程度のことは知っている。  なんの心の準備もないままに恋人の家族に初めて会うなんて、どんなに緊張するだろう。  だけどかるくんはちゃんと笑顔を作り、挨拶をした。  問題なのはお兄ちゃんの方だ。ぶすりとした顔を隠そうともせずにかるくんを睨んでる。それだけなら まだしも。 「お前にお兄さんなんて呼ばれる筋合いはない」  そう吐き捨て、わたしをかるくんから引き離そうとした。 「なんてこと言うのよ、お兄ちゃん」  お兄ちゃんの手を振り払い、睨みつける。いくらお兄ちゃんでも許せない。かるくんはわたしの大切な 人なのに。 「妹の彼氏にまともな挨拶のひとつも出来ないの?」 「みっか」  怒るわたしをなだめるように、かるくんがわたしの肩に両手を置く。  だけどそれを見たお兄ちゃんの口がますますへの字に曲がった。 「俺は認めないぞ、そんな奴」  かるくんを嫌悪するように言うお兄ちゃんに、わたしはますます腹が立った。 「お兄ちゃんが認めようが認めまいがかるくんはわたしの彼氏で、その内お兄ちゃんの義弟になるのよ。 お兄さんって呼んでなにが悪いのよ」  言い放った言葉に、お兄ちゃんが固まった。  ちょっと言い過ぎた?  でもだからと言って訂正する気もないので、かるくんの腕を取りお兄ちゃんにくるりと背を向ける。 「じゃあね、お兄ちゃん。かるくん行こ」  呆気にとられていたのかかるくんも、腕を引っ張られてようやく歩きだした。 「あの、食事が済んだらちゃんとすぐに家まで送りますので」  お兄ちゃんに気を使ってかるくんが言う。  お兄ちゃんはというと、黙ったままその場に立ち尽くしていた。  全く、お兄ちゃんのせいでせっかくのクリスマスイブが台無し。  予約していたレストランに入っても怒りが治まらず、イライラを静めようと深呼吸して、やっと気が ついた。かるくんが、むっつりとしている。  怒りがさぁっと引いていった。嫌な思いをしたのはわたしなんかよりかるくんのほうなのに。 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 「あの……。ごめんね、かるくん」  わたしといる時のかるくんは、いつだって笑顔で幸せそうで。そんなかるくんを見てるとわたしも 幸せで。だからこの幸せを壊したくないと思ってた。なのに今、かるくんの顔に笑みは無く、ちらりと こちらを見て、ため息をついてる。 「ごめんなさい、嫌な思いをさせちゃって……」  もう一度、謝る。せっかくのイブなのにかるくんに不愉快な思いをさせてしまったわたしは、今にも 泣きそうになってしまった。  それを見たかるくんが、慌てて首を振る。 「嫌な思いなんて、ちっともしてないよ?」  優しいかるくんはそう言ってくれるけど、お兄ちゃんの態度はどう見たって愉快なものじゃない。  でも、とつぶやくわたしに、かるくんはもう一度ため息をついた。 「嫌な思いは本当にしてないよ。ただ、みっか、お兄さんに俺がその内義弟になるっていったろ?」  かるくんはそこで一旦言葉を切った。頭の中をショックの嵐が駆け抜ける。  わたしの言葉が原因? かるくんがお兄ちゃんの義弟になるって言ったのが、嫌だったの?  頭が真っ白になりそうだった。  かるくんがわたしを愛してるのは知っている。それは疑うつもりはない。だから、すぐにとは 思わないけれどいつかはきっと結婚する、そう思ってた。だけどかるくんはそうは思ってなかったの?  嫌だったの?  そんな思いが一瞬の内に駆け巡った。  かるくんが続きの言葉を告げるため、口を開く。 「そういうのは、男の俺から言わせて欲しかったな」  え?  すねるように言って、かるくんはポケットから何かをゴソゴソと取り出した。 「だってあれって、プロポーズだろ?」  取り出した小箱をわたしに差し出して、かるくんが笑う。 「満天の星空からこぼれ落ちた小さな星を、約束の印に」  開かれた小箱の中には、小さく光る石のついた指輪。 「今はこれくらいしか出来ないし、今すぐにとはいかないけれど」  ほんのり頬を染めながら、かるくんがわたしに指輪をはめてくれる。  いつか必ず結婚しようと続いた言葉に、わたしは涙をこぼしながら頷いた。

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