たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは                          また別のおはなし。 その8  あれから二、三日、仮病でベッドに潜り込んでいた。  だってどんな顔してクロモに会えばいいのか分からなかったんだもん。  けど、いつまでもそのままじゃダメだっていうのは分かってたから、今日はえいやっと 気合を入れて身仕度をしてクロモの待つ食堂へと行く。 「おはよう、クロモ。……その、色々と迷惑かけてゴメンね!」  ドキドキしたけど、出来るだけ明るく大きな声で、笑顔でクロモに話しかける。  朝食の準備をしていたクロモは、わたしの声にびっくりして振り返った。 「もういいのか?」  慌ててこちらにやって来るその顔を見て、随分とクロモに心配掛けちゃってた事に 気づいた。 「うん、大丈夫。クロモのおかげですっかり良くなったよ。ありがとう」  仮病なんかでこんなに心配掛けちゃって罪悪感でいっぱいになりながらペコリと頭を 下げる。 「いや、良くなって良かった」  顔を上げるとホッとしたクロモの顔が目に映って……頬が熱くなるのを感じた。 「まだ熱があるんじゃないのか! 大丈夫か?」  顔が赤いのを勘違いしたクロモが、再び心配顔でわたしに手を伸ばす。 「大丈夫。もうすっかり元気だから!」  慌てて首を振ったわたしは、一歩後ずさってから笑顏を作ってみせた。  それからいつもと変わらない日々が続いた。変わらない……といっても、出来るだけ そう見えるように努力してたんだけど。  クロモが好きっていう気持ちは、日に日に強くなっていく。だけどわたしの中で、 どうしたいのか答えが出ない。  勘のいいお姉さんはわたしの気持ちに気がついたみたいだけど、突かずに見守って くれている。  仕事の合間にクロモはわたしの世界を探してくれている。だけどまだ見つかってない。  だからわたしはそれを言い訳にして、答えを出すのを後回しにした。  魔方陣のレース編みは順調に数を増やしていく。今日も一枚、出来上がった。まあ実は 半分以上はお姉さんが編んだものなんだけど。  元々そんなに器用じゃないわたしと魔方陣の知識バッチリで器用なお姉さんとじゃ、 やっぱりスピードが違ってくる。仕方ないよね。  そんな事考えつつ、今までに編み上がった魔方陣をテーブルの上に並べていく。 「ふあ。やっぱキレイだよなぁ……」  ついうっとりテーブルの上のレースを眺めていると、クロモが部屋に入ってきた。 「ああ、だいぶ出来たな」  テーブルの上を見てクロモが頷く。 「うん。こうやって見るとすごいよね。これ一つ一つが魔法の形だと思うと感動っていうか。 発動しないのは残念だけど、それでもすごいと思う。けどこれでもまだクロモの本に 載ってる半分くらいなんだよね。これから編むのは更に難しいやつだから、時間ももっと かかっちゃうと思うんだ」 「慌てる事はない。期限は特にないのだから」  微笑むクロモにわたしも「うん」と笑みを返して頷いた。 「ところで、明日は仕事で家を空けるが、大丈夫か?」  心配そうにクロモがわたしを見ている。一緒に行こうって言わないってコトは行かない ほうがイイ仕事なんだろうな。 「大丈夫だよ。そろそろお姉さんもやって来る頃だろうし。そういえばシオハさんも そろそろ来る頃だよね。もし来たらどうする? 何か買っとく物とかある? だいたい どのコインがどのくらいの価値なのかは分かってきたから大丈夫だよ。あ、でも物の 価値の方はまだ分かってない物もあるから不安かな。でもシオハさんならぼったくったり しないでしょ。どうする?」  わたしの言葉に苦笑しながらクロモは答える。 「今、急ぎで買わなければならない物はないから、君が気に入った物があれば買うと良い」 「うん。ありがとう。迷ったらお姉さんに相談してみる」  そうして次の日、クロモは朝早くに仕事に出掛けて行った。

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