たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは                          また別のおはなし。 その7  結局その日の夜はぐっすりとは眠れなかった。そのせいで目の下にクマでも出来て たんだろうか、次の日の朝、わたしの顔を見たクロモがギョッとした顔をした。 「具合が悪いのか?」  もしかしたら顔色も悪かったのかもしれない。クロモが心配そうにわたしの額に手を 当てる。 「え……あ……」  そういうわけじゃない。ただの寝不足だって言おうとしたけど、クロモの近さに びっくりして声が出なくなった。 「分かりづらいな」  そう言ってクロモは、今度はおでこをくっつけてくる。  そんなまるでキスするみたいな近さに、当然わたしの頭には血が上るわけで。 「……少し熱があるな」  クロモは心配そうにそう言って、わたしから離れた。  違うよ。熱とかじゃなくて、単に恥ずかしいから顔が赤くなってるんだよ。  そう言いたかったけど、なんで恥ずかしいのかとか訊かれたらどうしようとか思うと、 言えなかった。だってまだわたしの中で答えが出てなかったから。  大事を取って寝ているように言われ、寝間着に着替えてベッドに入る。  申し訳ないなと思いつつ、せっかくクロモがそう言ってくれたんだからと寝たふりを する為に目を閉じる。  カチャリと誰かが入ってきた気配がした。誰かってもちろんクロモしかいないんだけど。  やっぱり嘘ついて心配掛けるのもダメかなと思って目を開けようとしたけど、寝不足 だったせいか目が開かない。意識はまだあるけど、ほんとに寝かけちゃってるみたいだ、 わたし。  いやでも意識はあるんだからまだ起きられるはずと、頑張って起きようと試みている 内にクロモの手が、そっとわたしの額に触れた。 「熱は……下がったかな」  ホッとしたようなクロモの優しい声。もともと熱なんてなかったのに心配掛けちゃって、 すごく申し訳なくなる。  額に触れていたクロモの手が、そのままわたしの頭を撫でる。  ……気持ちいい。ゆっくりと頭を撫でられ、ますますわたしは眠りに囚われてしまう。  こんなふうに頭を撫でられるのは、ちっちゃい時以来だ。幼稚園とか小学校低学年とか、 そのくらいぶり。  ウトウトと、意識がどんどん沈んでいく。  ふわふわとした気持ちの中で、ふと額に何か柔らかなものが触れた気がした。続いて まぶた。それから頬。  気持ちがいい。もっと触れてほしい。  それを逃したくなくて、手を伸ばす。  温かなそれを抱きしめ、ふとその柔らかなものはもしかしたらクロモの唇なんじゃ ないかと思った。  これは夢? わたしの願望が夢に現れたの?  だったらどうせなら、唇にキスして欲しい。今だけ。夢の中だけ。  目が覚めたらきっとまた、わたしは迷ってしまう。だから。  だけど唇にぬくもりが落ちたかどうか分からないまま、わたしの意識は眠りに落ちた。  だから、どこからが夢でどこまでが現実かわたしには分からなかった。

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