たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは                          また別のおはなし。 その6  クロモと二人、お茶を飲みながらふと気になっていた事を尋ねてみた。 「そういえば前から訊こうと思ってて忘れてたんだけど。クロモやお姉さん、 お義兄さんも街の他の人達も明るい髪の色の人が多いよね。けどホラわたし、黒髪じゃん?  てことはお姫様も黒髪なんだよね。それって王族は黒髪が多いのかな。それともたまたま お姫様が黒髪だったの?」  そっくりだから身代わりにされたって事は、お姫様はバリバリの日本人顔だったはず。 けど、クロモとか他の人達ってどっちかというと白人系なんだよね。なんか不自然に 感じちゃうの、わたしだけかな?  クロモはちょっと考えるように首を傾げてから、ゆっくりと口を開く。 「現国王の髪は黒い。しかし王族全てが黒髪というわけではない」  そしてもう一度頭を巡らせ、クロモは言った。 「市井の中にも黒髪の者はいる。確かにこの辺りの街は淡い髪の者が多いが、黒髪が 珍しいという程ではない。だから街に出た時もそれほど珍しがられてジロジロ 見られたりなど、しなかっただろう?」 「そーいえばそうだね。王族しか黒髪がいないんなら警戒されたり畏まられたりする だろうけど、街の人普通だった。そっか。たまたま黒髪の人見かけなかっただけで別に 珍しいわけじゃないのか」  そう思うとホッとした。 「そちらの世界は黒髪の者ばかりなのか?」  言いながらクロモが、わたしに手を伸ばしてきた。その手がわたしの頬をかすめて、 サラリと髪に触れる。 「え? や、えーと。……わたしの国の人は黒髪がほとんどだけど、他の国の人達は そうじゃない人達もいるよ? それに元々黒髪の人も脱色したり染めたりして色 変えてる人もたくさんいるし」  ドギマギしながら答える。だってクロモったらわたしの髪触ったまま、じっと優しい 目で見つめてくるんだもん。  そんなわたしに気づいてるのかいないのか、クロモは驚いた顔をする。 「髪の色を変える? 変装するのか?」 「変装じゃなくて、オシャレだよ。お化粧したり服を変えるのと一緒。髪の色も気分で 変えたりするの。……まあ染めたり脱色したりするの大変だからそう頻繁には変えないと 思うけど。あ、わたしは変えたことないよ? 黒髪嫌いじゃないから」  わたわたしながら答えてたら、クロモの手からわたしの髪が滑り落ちた。クロモは 何事もなかったかのようにその手を引っ込める。  それを淋しいと思ってしまった自分にびっくりしてクロモを見た。クロモは相変わらず 優しい瞳でわたしを見ている。 「俺も黒髪は嫌いじゃない」  見つめられたまま囁くように言われて、ドキドキしないはずがなかった。  その日の夜、寝るために自分の部屋に戻ってもドキドキは治まらなかった。  人里離れた森の中に住んでるから、まだこの世界の人のこと、あまりよく分かって いない。この世界で頻繁に会う男の人は、クロモ以外ではシオハさんくらいで、考えて みればシオハさんもよくわたしを褒めてくれたりする。  そう考えるとここの男性は、イタリア人みたいに女性を褒めるのが当たり前なのかも しれない。  だけどそこまで考えて気づいた。シオハさんに何を言われても、社交辞令だなぁとしか 思わないことを。  もちろん彼が商売人だってのもある。でもクロモも社交辞令だと考えてみたけど、 それでも言われたらドキドキしちゃうなと思った。それと同時にそうだとしたら、 淋しいなって。  そこまで考えてようやくわたしは自分の気持ちに気がついた。  わたし、いつの間にかクロモの事が好きになっちゃってたんだ。だからクロモに 言われたら、ドキドキしちゃうんだ。  胸が苦しくなった。だって、好きになっちゃイケないのに。いつか自分の世界に 帰らなくちゃイケないのに。  いつだったかのお姉さんの言葉が不意に蘇る。 『クロモと、本当の夫婦になるつもりはない?』  未だお姉さんはそう思ってくれているのが分かる。  でも、クロモの気持ちが分からない。  クロモの事が好き。でも。  それをクロモに伝えたいの? 両思いになりたい? 恋人になりたい?  もしも、クロモがわたしの事を好きでいてくれたなら、嬉しい。恋人になれたなら、 嬉しい。  もちろんクロモにとってはただのお姫様の身代わりで、なんとも思われてないかも しれない。けどそれでも、もしかしたらって気持ちもある。  それを知るにはわたしの気持ちを伝えるのが、たぶん一番で……。  でも、本当にクロモがわたしの事を好きだったら。恋人になったら。  きっとお姉さんは喜んでくれる。そして本当の夫婦に……という話になるだろう。でも。  本当の夫婦になりたいの?  そして、自分の世界に帰るのを、あきらめるの?

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