第4話       その2  王様がお嬢様を可愛がっているのは知っています。きっと今回の事も可愛いお嬢様を 出来るだけ手元に置いておきたいが故の発言なのでしょう。  けれどちっともお嬢様のお気持ちを考えていないわとスミさんは思いました。  決して悪い王様ではないのですが、こんな事をすればお嬢様自身が王様を嫌いになる 可能性があると気づかないのでしょうか?  可哀想にお嬢様は、あの日から何日か寝込んでしまわれました。  それを聞きつけた従兄弟の何人かがお見舞いを申し込まれたようですが、もう少し 体調が良くなってからと旦那様が断りを入れたそうです。  旦那様も奥様も仕事がある為つきっきりというわけにはいきませんでしたが、暇を 見てはお嬢様の様子を見に来ていました。  スミさんはお嬢様付きのメイドとしてそれこそつきっきりで看病していましたけれど、 それではスミさんが倒れてしまうと、旦那様のところから一人、奥様のところから もう一人、手伝いに来てくれました。  それは偶然か、パーティーの時に手伝いに来てくれたのと同じ人達でした。  スミさんは少しホッとしました。同じ屋敷で働くメイドとはいえ、スミさんには 仲間どころか名前を知っている人も少ないのです。ですから全くの初対面の人よりも、 一度でも共に仕事をしたことのある人のほうが安心出来ました。  旦那様派のメイドはタバタさん、奥様派のメイドはミソノさんと言いました。  二人はスミさんの手伝いをしに行くのに、実は乗り気ではありませんでした。  派閥の違う人と一緒にする仕事はとてもやりにくいものですし、ましてやスミさんは 「特別」なメイドです。あまり関わりたくないと思って当然でしょう。  けれどそれは誰もが同じで、「手伝いに行って欲しい」と言われても手を挙げる者は いませんでした。  しかし旦那様や奥様に直接頼まれて嫌とは言えません。  そうして二人はスミさんの手伝いをする事になったのです。  お嬢様の部屋に行くとスミさんはちょうど、お嬢様の額のタオルを取り替えている ところでした。 「お疲れ様です。交代しましょう。スミさんは休んできて下さい」  ミソノさんが言いますと、スミさんは深々と頭を下げました。 「お手伝いありがとうございます。わたしは隣の控えの間で休みますので、お嬢様に何か ありましたらすぐに知らせて下さい」  もう一度ペコリと頭を下げると、スミさんは疲れた身体を引きずってパッと控えの 間へと行きました。  驚いたのはミソノさんとタバタさんです。  いくら疲れていたって他所のメイドに仕事を任せるのは嫌なものなのに、こんなに あっさりわたし達を信用して任せてくれるの?  これが奥様派のメイドなら、やれあれをしてはダメこれは触るなとどうでも良い 引き継ぎがダラダラと続くのに、とタバタさんは思いました。  ミソノさんは別のことに驚いていました。  部屋に入った時から何か良い香りがほのかにすると思っていたら、この水だわ。  それはお嬢様の額を冷やすタオルを濡らす為の水でした。その水に触るとヒンヤリと するミントとリラックス効果のあるラベンダーが入れてあるようでした。  ただ見た目で選ばれたメイドだと思っていたけれど、こんな細かな気遣いも出来る子 なのね。  ミソノさんは密かにスミさんに感心しました。

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