第4話       その3  本当の事を言えばスミさんは、寝込んでいるお嬢様の傍を離れたくはありません でした。けれど無理をして何日も徹夜をして、万が一お嬢様の具合が急変した時に スミさんまで倒れたのでは意味がありません。  うたた寝をしたり朦朧とした状態でお嬢様の具合の悪さを見逃すよりは、きちんと 休んでその間他の人にお嬢様を任せておいた方が、お嬢様にとっても良いはずだと スミさんは自分に言い聞かせ、ベッドに入ります。  手伝いに来てくれたタバタさんもミソノさんも、色々と意見の違いはありますが、 仕事に真面目な良い人だと感じていました。  手伝いに来たのが初対面の人でしたら、お嬢様を任せて大丈夫だろうかと不安で 寝付けなかったでしょうが、前回の仕事ぶりを知っているスミさんはあの二人なら安心と ぐっすりと眠る事が出来ました。  お嬢様が目を覚ますと、スミさんの姿がなくてびっくりしました。 「お目覚めですか、お嬢様、ご気分はいかがですか?」  お母様のところのミソノさんが、優しく声をかけてくれますが、お嬢様はスミさんの 姿を捜すのに必死で頭に入ってきません。それに気づいたタバタさんが慌てて「スミさんを 呼んできますね」と隣の控えの間に足を向けました。 「スミさんはずっとお嬢様の看病をしていたのですが、このままではスミさんが倒れて しまいますのでちょうどわたし達が交代していたところなんですよ」  ミソノさんはお嬢様を安心させるため説明します。  お嬢様がホッとしたところでスミさんが隣の控えの間からパタパタと出てきました。 「おはようございます、お嬢様。喉が渇いたでしょう。すぐに飲み物をご用意しますね」  いつお嬢様が目覚めても大丈夫なよう準備していたのでしょう。スミさんはその場で グラスに飲み物を注ぎお嬢様へと差し出しました。  コクリと頷きお嬢様はそれを口へと運びました。  それはほんの少しだけ果実の香りと甘みの入ったお水でした。その優しい味にお嬢様は コクコクと飲み干してしまいました。  ありがとうの代わりにお嬢様はスミさんに笑顔を向けます。  お嬢様の笑顔を初めて見たミソノさんとタバタさんは、なんて可愛らしいのだろうと 驚きました。  これまで自分の仕えるご主人様の娘さんとしか思っていませんでしたが、こんな 可愛らしいお嬢様を見ると奥様や旦那さまが甘やかしたがる気持ちも分かると思うの でした。  熱も下がり、寝込むような事はなくなったお嬢様ですが、部屋からは出ないで過ごす 日々が続きました。  というのも、従兄弟達が何かしら理由をつけて会いに来るのを断るのに、部屋から 出られるくらいに元気になったらと言い訳をしてしまったからです。 「お嬢様。今日も従兄弟の皆様からお見舞いの品が届いていますわ」  スミさんが花束やリボンのかかった包みを持って来ます。 「そろそろ覚悟をお決めになって、皆様に会われてみてはいかがですか?」  これまでほとんど交流のなかった従兄弟の皆様が、王位欲しさに毎日お嬢様の元へ やって来るのはスミさんだって良い気持ちはしません。  それでもお嬢様にはこれをキッカケに色々な人と交流してほしいとも思ってしまうの です。  お嬢様も本当はこのままではいけないと思っているのですが、どうしても勇気が 出ません。 「最初から無理をする必要はありません。とりあえず、お見舞いという名目なのですから 五分か十分だけ、皆さんにこの部屋へ入ってもらったらどうでしょう。時間が過ぎました らわたくしが責任を持って皆さんに出ていってもらいますから」  スミさんの言葉にそのくらいならなんとか大丈夫かもとお嬢様は頷きました。  翌日、短い時間だけどお嬢様が会ってくれると知ってやって来た従兄弟は四人でした。  タカとオミ、それからイチヤとフツカの兄弟です。  みんなそれぞれに手土産を持ち、お嬢様に会うためにソワソワしているようにも 見えます。  スミさんは、自分がしっかりしなくてはと気を引き締めました。 「ようこそおいで下さいました。お嬢様はまだ完全には回復しておりませんので、本日は 短い時間だけの面会となる事をご了承下さいませ」  王子様方に失礼がないようにと、深々と頭を下げます。 「もっちろんもちろん。早く元気になってもらうタメにも、ミナちゃんにムリさせちゃダメ ダメだよねぇ」  軽い口調で答えたオミの言葉が終わるのを待ってから、スミさんは顔を上げお嬢様の 部屋へと案内しました。  その日お嬢様はさんざん考えた結果、きちんと余所行きの服に着替え、椅子に座って お客様を待つことにしました。  お見舞いという名目、しかも短時間しか会えないとなっているのですから、夜着で ベッドに横になっていたほうが良いのかもしれません。  それでも実際には起き上がれるのですし、従兄弟とは言え相手は王族です。やはり きちんとした服で迎えないのは不敬に当たるでしょう。  お父様やお母様は無理して王子様方に会う必要はないと言ってくれていますが、 いつかは会わなければならないのです。  お嬢様は覚悟を決めて、王子様方がやって来るのを待ちました。

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