仲良くしましょう  お客様が来て、子供達以外は家に入ったのを見届けた後、ソキは星見の塔の上へと腰を 下ろしていた。  大きく息を吐き、空を見上げた。春の優しい陽気が、ソキの身体を包み込む。  さっきはもう少しだったのに、残念だな。  下に小さく見える子供達を見下ろし、ソキはちょっと淋しそうに笑みを浮かべた。  もしあのお客さんが来なかったら、キュリンギさんと一緒にみんなもすぐ傍まで来て くれたかもしれない。少しだけでもお話出来たかもしれなかったのに。  春の夜祭りの時には恐怖しかこちらに向けて来なかったけれど、今日風に乗せて聞いた みんなの声は興味と、ほんの少しの好意をソキに伝えてきた。  ソキはそれが、とても嬉しかった。  師匠は次はいつ、みんなに会わせてくれるかな。  そんな事を考えつつ、優しい風に目を閉じる。  少しの間、目を閉じたままゆったりとしていると不意にマインの呼ぶ声が聞こえて きた。  目を開け声のした方に目をやると、マインは子供達とは大分離れた場所にひとり立って いた。  どうしたんだろうと思いつつ、ソキは塔の上から身を躍らせた。そしてフワリと マインの元へと飛んで行く。  ソキと話をしたいから他の子達と離れた場所にいるというのは分かった。けれど、 滅多に会えない村の子達を放っといてソキの事を呼ぶだなんて、どんな急用だろう。 しかもよく見ると子供達の中にもシガツがいない。なにかあったのかな。 「どうしたの? マイン」  マインの隣に降り立つと、ソキはくりんと首を傾げた。  これまでの経緯を話したマインはソキの反応を伺った。みんなと自分はそれも いいかもと思ったけれど、もしかしたらソキは、やっぱり師匠やシガツのいない所で みんなに会うのは怖がるかもしれない。  ソキはちょっぴり不安そうな顔をしてニールたちの方へと目をやった。そして風を 呼び、何か話をしている彼らの声を運ばせる。 「もう、行ってもいいのかな?」 「大丈夫? 怖くない?」 「とりあえず、ゆっくり近づいてみよう」  そんな事を話しながら、子供達が歩き始める。 「……もしソキが怖いんなら、逃げちゃっていいからね」  心配になったマインがそう声を掛けてきた。  本音を言えばちょっぴり怖かったけれど、ソキはぷるぷると首を振って笑顔を見せた。 「せっかくみんなの方から近づいてきてくれてるんだもん。逃げたりなんかしないよ」  シガツや師匠には怒られてしまうかもしれないけれど、それでもやっぱりみんなと 友達になれるチャンスを逃したくはなかった。  ドキドキする。  だけどそれは向こうだって一緒だ。ソキはだいぶ近くなった子供達ににこりと笑顔を 向けた。  ソキの笑顔を見て、ニールは一瞬『怖い』と感じてしまった。だけどすぐ傍にいる マインがその笑顔に応えるように笑ったのを見て、すぐに思い直した。  あれはマインの友達なんだから、大丈夫。  エマも少し安心したのか、意を決して口を開く。 「こんにちは」  ソキはちょっと驚いたような顔をしたけれど、すぐに笑顔に戻り、挨拶を返した。  そうしてソキと子供達の交流が始まった。

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