まかと摩訶    暗くなってしまった帰り道、みおこさんはまかの姿を見つけて驚きました。だってまかはお家の中に いるはずなのに、アスファルトの上をとっとっと、歩いているのですもの。 「まか?」  声をかけるとまかは、不思議そうにこちらを振り返りました。 「どうしてこんな所にいるの? 一緒に帰ろう?」  しかしお外で会ったせいでしょうか、まかはみおこさんに近づこうとはしません。  まかによく似たよその猫なのかしら?  なにせお日様はとっくに暮れていて、電柱の灯りだけが頼りなのです。眼鏡をかけなおしながら、 みおこさんはもう一度まかを呼びました。 「お家、帰るよ? まか、おいで?」  するとまかはいぶかしげにみおこさんを眺めて、それから首をかしげてこう言いました。 「あんた誰だ? どうして俺の名前を知ってるんだ?」  みおこさんはびっくりしました。だって、猫が言葉を喋ったんですもの。 「まか、いつからお喋りできるようになったの?」 「いつからって、昔からさ」  まかはそう言うけれど、みおこさんはこれまでまかが喋るところなんて見たことがありません。 「お家じゃ喋ったことないじゃない」  するとまかはもう一度くびをかしげ、それから瞳をキラリと光らせました。 「ねこ違いしていないか? 確かに俺はまかだけど、あんたの家なんか知らないぜ」  確かにそうなのかも知れません。だって、まかの喋ったところは見たことないけれど、こんなガラの 悪い口の利き方はしないとみおこさんは思ったのです。 「そっかぁ。ごめんね、呼び止めて。でもほんとによく似てる。名前までおんなじ『まか』なんだね」   みおこさんが言うと、まかはふっと目を細めました。 「俺のは摩訶不思議の『摩訶』だよ。今度お前ん家のまかにも会いに行ってみよう」 「うん。その時は仲良くしてあげてね」  そうして摩訶は振り返ることなく闇の中に消えていきました。  みおこさんはそれを見送ってから、不思議な気持ちのまま家へと帰りました。家にはもちろん、 ちゃあんとまかがみおこさんの帰りを待っていてくれました。 「今ね、お前のそっくりさんに出会ったのよ?」  抱き上げたまかにそう語りかけると、まかは『まうっ』と答えました。 「お前も摩訶みたいにお喋りできたらいいのにね」  だけどみおこさんは知っています。お喋りなんて出来なくてもみおこさんはまかが大好きだし、 まかもみおこさんが大好きだって事を。  みおこさんはまかの頭を撫でながら摩訶のことを話して聞かせました。 「こんど摩訶が遊びにくるって言ってたよ」  仲良く遊んでね。その時はわたしも仲間に入れてね。  そんなことをお話ししながら、今日もみおこさんとまかは一緒に眠るのでした。              おしまい。

前のページへ 一覧へ 拍手ページへ


inserted by FC2 system