2-1

      2  エリティラの棲む村から王城まで、普通ならば一日では辿り着けない。エリティラはすぐさま旅支度を しようとしたが、アルトワースがそれを止めた。 「明日の朝迎えに来よう。王に謁見するのだ、身なりを整えておくように」  そう告げてアルトワースは姿を消した。  エリティラはほっとした。少なくとも王に意見を言わせてくれる機会をくれる気はあるのね。もしか したら城に辿り着いた頃にはすべてが決まっているのではと危惧もしたけれど、そこまで強引に事を 運ぼうとは思っていないらしい。  それほど自信があるのね。だけどどうにか王に結婚の許可を出さないように説得しなければ。  自信はなかった。王に会うなど、一生無いはずだった。はたしてちゃんと口は動くかしら?  でもそれでもなんとかやらなければ。  エリティラは暗い気持ちになった。こんな風に結婚するなんて嫌だったし、結婚したところで彼に 教える魔法など端からないのだ。何度言っても信じなかった事実に結婚後に彼が気づいたら、彼は どうするだろう。その時の事を考えると悲しくさえ思えた。  そうならない為にも王を説得しなければならない。  そう思うとエリティラはその夜上手く寝付けなかった。  翌日、アルトワースが迎えに来た時エリティラは完璧に仕度を整えていた。少なくとも彼女はその つもりだった。だがエリティラの格好を見てアルトワースは眉をしかめた。 「その格好で王に謁見するつもりか?」 「ええ、そうよ」  持っている中で一番上等の衣装に、アクセサリー。髪も普段はそのまま後ろに流しているが、 今日は簡単にだけれど結ってみた。とはいえ、黒いベールに隠れてあまりみえないだろうけれど。  しかしアルトワースは気に入らなかった。  なんて下品な衣装なんだ。魔女だから仕方がないのか?  黒いレースのベールの下から覗く、毒々しい赤い髪。それに合わせた様に紅く塗られた口紅 。アイシャドーもまたベッタリと毒々しい色を放っている。黒いレースを重ねたようなドレスは大きく 胸元が開き、ジャラジャラと安物の宝石のネックレスが下がっている。イヤリングや指輪もやはり大きな、 だが安物の宝石の悪趣味なデザインのものだった。  仮にもこれから自分の結婚相手として王に会わせるのに、こんな格好のエリティラを連れて行くのは 抵抗がある。だが彼女自身は自分の格好に満足しているようだ。  着替えるよう言うべきかアルトワースは迷った。だが今から衣装を選ばせている暇はない。女の仕度の 時間の掛かることを彼は知っていたので、ため息をつき、言った。 「くれぐれも陛下に失礼のないようにな」  そんなこと分かってるわよ、とエリティラは心の中でつぶやいた。

前のページへ 一覧へ 次のページへ


inserted by FC2 system