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 謁見の間を出るなりエリティラは噛み付いた。 「卑怯だわ、王の信頼を得ているからといって嘘をつくだなんて」  王に意見を言わせてくれる機会をくれたなんてとんでもない、これ以上この問題を長引かせたく なかっただけじゃない。  エリティラの苛つきに気がついているのかいないのか、アルトワースは飄々としている。 「嘘などついていないが? センタリスは実在する魔法使いだ。信じられないのならその内歴代の王つき 魔法使いの本を貸そう」  エリティラは横目で睨みながらアルトワースの横に着いて歩く。  どこと無しに機嫌が良さそうなのは、結婚が決まったからだろうか。  けれどおあいにく様、結婚したってありもしない魔法は教えられないんだから。 「さて、婚約者殿。結婚式やその後の生活において何か希望はあるかな?」 「希望は結婚しないことなんですけど」  どういうつもりで希望なんて聞いてくるのか、信じられない神経だわ。  自分さえ良ければエリティラの事など考えもしないアルトワースの態度に彼女はますます腹を立てた。 「それはもう無理だな。例え魔法を教えるからと言われても王の許可が出た今となっては私も覆すことは 出来ない」  そんな事は解っている。だから尚更腹立たしいのだ。エリティラはアルトワースを蹴り飛ばしたい 衝動に駆られたが、それはどうにか押さえて皮肉たっぷりに笑った。 「そしてわたしは囚われの身というわけね。満足? でも貴方の望むものは手に入らないわよ。元から 無いものを手に入れるために結婚なんて代償を払って、後悔しなければいいけどね? それとも貴方に とって結婚なんてたいした価値はないのかしら?」  実際彼にとって結婚などたいした意味は持たないのかもしれない。おそらく妻と言う名の召し使いや 助手が増えるくらいにしか思ってないのだろう。  エリティラの問いにアルトワースは少し考えたように首をかしげた。 「どうだろうな? しかし君にとってこの結婚、そんなに悪いものではないと思うが?」 「悪いものではない?」  何が悪くないって言うの? 国一番の魔法使いと結婚できるから? 彼の容姿が整っているから?  お金持ちだから? わたしの事を愛してもいない人の妻にならなければならないのに何が悪くない ですって? 「はっ。男達のすることは皆一緒ね。女達の気持ちなんてお構いなし。親に村長に領主に王に、男同士で 話をつけて自分の思い通りにするんだわ。相手の女性が相手を嫌いでも他に好きな人がいても関係ない、 品物のようにやり取りされるのよ」  泣くつもりなんてなかった。だが吐き捨てるように言った後エリティラの目からは悔しさのあまり ポロポロと涙が零れ落ちていた。

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