ひきこもり黒豚伯爵と、結婚することになりました。  そうこうしている内に、わたくしも十六歳の誕生日を迎えました。そしてその 誕生祝いの席でお父様がおっしゃったのですわ。 「喜べ、メリル。お前の結婚相手が決まったぞ」  貴族の娘として産まれたからには避けて通れない道です。 「サウス・シギール・ダントン伯爵だ。歳は二十五歳。少し年上だがそのくらいの方が お前には合うだろう」  わたくしには甘いお父様ですから、あまりお勉強が身についていないわたくしには そのくらい年上の方がしっかりフォローして下さると思ったのでしょう。  わたくしももう十六です。年の近いお友達とそういう話もしますから、中には自分の お祖父様程の歳の方と婚約せられた方も存じております。先妻が不慮の事故で 亡くなられた方の後妻にと望まれたのは良いけれど、その方には五人の愛人が いらっしゃったという方も。  ですからわたくしに来た縁談は良い方なのです。  けれどお友達のカリーナ様にその話をした途端、わたくしは不安に襲われました。  カリーナ様はわたくしの話を聞いた途端、こう言ったのです。 「まあ! ダントン伯爵って、あの引きこもりの黒豚伯爵って言われている?」 「ひ……き?」 「ああ、失礼。けれど今他に人はいないからよろしいわよね」  口の悪さを補うようにカリーナ様はにっこり笑います。  ちなみにわたくしとカリーナ様の周りにはお茶の支度をしているメイド達が行き交って いるのだけれど、彼女にとってはいない内に入るらしいようです。 「……あの、悪い噂のある方なのですか?」  はっきり言って社交的ではないわたくしは、あまり情報収集が得意ではありません。 「……メリル様もどちらかと言えばあまり社交場にいらっしゃいませんが、 ダントン伯爵はその姿を見るほうが稀と言われておりますの」  だから引きこもりですのね。まあ、わたくしもあまり活発に人前に出たい方では ありませんから、その辺りも考慮してお父様は選んで下さったのかもしれません。  けれど黒豚? 「わたくし達女性も参加できるパーティーに顔を出されていたのはもう十年も前の 話ですわ。そしてその頃伯爵はとてもふくよかでいらっしゃったの。ちなみに髪は黒。 ですからそう呼ばれているのですわ」  なんだかヒドイ言われようです。 「けれど酷い方ではないのですよね?」  容姿はともかく、性格が悪いと不安になります。 「それは分かりませんわ。なにせ十年もお会いしておりませんもの。紳士の集まりには 時折顔を出しているようですけれど、男性に他の男性の噂をこちらから尋ねるのは、 はしたないですし」  少なくとも男性とは会われているなら、完全な引きこもりというわけでもないのですね。 まあ、そんな人ならお父様は選ばないでしょうけれど。 「けれどメリル様。わたくしが驚いたのは、そこではありませんのよ」 「え?」 「ダントン伯爵には今まで色々な家から縁談が来ていましたけれど、これまで ことごとく断られていますの。けれどメリル様の話ですと、縁談の話があるというの ではなく、決まったとの事でしたよね」  わたくしは頷きました。お父様は確かに婚約が決まったとおっしゃっいましたもの。 「ですから驚きましたの。確かにお二人の家柄はちょうど釣り合いが取れますけれど、 これまでだって釣り合いの取れた家柄とのご縁はあったんです。なのに全て断って こられた。……もしかして伯爵様はメリル様の絵姿に一目惚れかしら? ぜひロマンスを お聞かせ願いますわ」

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