伯爵様の事を聞かされました。  信じられない事をおっしゃるサウス様に、わたくしはしばし固まってしまいました。  するとサウス様は立ち上がり、机の引き出しから何かを取り出し持って来られました。 「これ」  渡されたのは、わたくしの絵姿でした。おそらく縁談の際渡された絵姿でしょう。 そこに描かれていた姿は恐れていたように美化されたものではなく、鏡に映したように そのままのわたくしの姿でした。 「わたくしですわね」  それしか言いようがありません。 「そう、君だ。けど、この髪と瞳を黒くすると、サンローズにそっくりだと思わないか?」 「……え?」  言われてみますと、似ているような気もします。けれど。 「ありえません。だってサンローズは、侯爵令嬢でしょう? 今が『デジ・スト』より 前の時代だったと仮定して、ヒロインや悪役令嬢が今から産まれるのだとしても、 伯爵様の娘が侯爵令嬢だなんておかしいではないですか。それともサンローズは養子に でもいくのでしょうか? しかし元は伯爵令嬢程度だった者が、幼い頃から王子の 婚約者だったなど、ありえるのでしょうか?」  わたくしの質問に、サウス様は驚いたように目を見開かれました。 「もしかして、俺の事あんまり聞かされないまま嫁いで来た?」 「? サウス様はダントン伯爵なのでしょう?」  考えてみればそれ以上の事は聞かされなかったし、わたくしも訊きませんでしたわ。 「えーと、君も貴族だから、この国の爵位は個人が継ぐことは知ってるよね?」 「? その家の長男が継ぐのではないのですか?」  あまりお勉強の好きではなかったわたくしは、その辺りはなんとなく聞き流していた。 前世のラノベなどでは男爵家、伯爵家なんて言葉が出てきたし、だからなんとなくその 家の長男が継ぐものだと捉えていた。 「まあ、長男が継ぐことが多いのは事実だけど、そうじゃない時もある。でもって息子が いない時には弟の息子に継がせたりという時もある」 「それは分かります」 「先の戦争で貴族の戦死者がだいぶ出た。けど爵位の数は変わらない。そうなると二つも 三つも爵位を持つ家が出てくる。分かるかな?」 「ええ?」 「実際俺は今ダントン伯爵を授かっているわけだけど、父親はユーギル侯爵なんだ。 ちなみに君んちもお父上は男爵だけど、お祖父様は伯爵のはずだよ」  そういえば、そうだった気がします。 「で、このままアニメ……というか、ゲームの世界の通りになるのだとしたら、近い内に 私の父上は亡くなるのだろう。死因が分かれば防ぎようもあるのだろうが、それは 描かれていない。少なくとも病死ではないと思うが。今もとても健康だから」  少し悲しそうにサウス様がおっしゃいます。 「すると私がユーギル侯爵を継ぐことになる。私に息子がいれば伯爵位を息子に譲って 私が侯爵になるのだが、私にはまだ息子はいないから、おそらく侯爵と伯爵の二つの 爵位を持つことになるだろう」  頭が混乱しそうです。 「中には一人で三つの爵位を持つ者もいる。まあ、名乗るのは中で一番位の高い爵位の ことが多いが」 「……つまり、サウス様はその内、伯爵様から侯爵様になられるのですね? そして わたくし達の間に産まれる娘がサンローズになると……」 「正確には伯爵と侯爵の二つの爵位を持つことになるだろう、だ」

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