転生男爵令嬢のわたくしは、ひきこもり黒豚伯爵様に愛されたい。  なんとなくですが分かりました。けれどやっぱり分かりません。 「わたくしとサウス様の娘がサンローズになるのは、なんとなく分かりました。けれど だったら、産まれてくるサンローズに会いたいのではないのですか? お好きなの でしょう?」  あんなにしつこく「恋ではない」と言っていたのも納得しました。自分の娘を邪な目で 見るわけにはいきませんものね。  それでも好きだったキャラクターが自分の娘だったなら、可愛がって育てたいのでは ないでしょうか?  そんなわたくしの思いが伝わったのでしょう。サウス様は握り拳を作られて訴えます。 「そりゃ会いたいさ。めちゃくちゃ可愛がって育てたいさっ。けど、その先に待ってる のがあの終わり方なんて、ないだろう?」  あの終わり方……。そうでした。王子ルートのサンローズは罪人として囚われてしまう のでした。 「けれど必ずしも王子ルートをヒロインが選ぶとは限らないでしょう?」  他キャラのルートでもサンローズの出番はあるけれど、王子ルート程の出番はないし、 特にどうなったのかは描かれていなかったはず。  けれどそれもサウス様にとって不安材料だったようです。 「他のルートでもどうなるか分からないだろ? なんせどうなったか描かれていないん だから。アニメみたいにあれこれまぜこぜな感じになったとしたら、王子と くっつかなくてもサンローズが罪を着せられるかもしれない!」 「では何故わたくしと結婚されましたの? わたくしと結婚しなければ、サンローズは 産まれないのでしょう?」  サンローズの悲劇を見たくないから、そもそも彼女が産まれないようにしたい。 サウス様はそうおっしゃっている。だったらわたくしと結婚しなければ良かったのでは?  そんなわたくしの質問に、サウス様は顔を真っ赤にし、涙目になりながらおっしゃい ました。 「めっちゃ理想の好みの女の子見せられて、その父親から『ウチの娘を嫁にどうか』って 言われて断れるわけないだろっっ。俺が断ったら他の男の所に嫁がされるのは目に 見えてるしっ。好きな子が他の男に抱かれるなんて、想像もしたくないしっ」 「は……?」  なんだかとんでもない事を聞いてしまった気がして、わたくしまで顔が赤くなって しまいます。 「言ったろ、サンローズが金髪碧眼だったらって。それってまんま君じゃん」  ! そうでした。わたくし髪は金、瞳は碧色でした。 「あー。言うつもりなかったのに。君からしたら、容姿だけで好きになったとか、 あんま良い気しないだろうけど……」  段々不安になってきたのでしょうか。サウス様の声がしぼんでいきます。  ですからわたくしも、思い切って告げました。 「わたくしも、初めてお会いした時にそのお顔に恋をしましたわ」  だからこそ、子供を作らないと言われショックを受けましたし、今もその理由を 尋ねたりしたのです。好きでないのでしたら、そんな行為、しなくてラッキーですもの。 例え世間で何と言われようとも。  まっすぐに見つめるわたくしの眼差しを、サウス様は驚いたように受け止められ ましたわ。 「……こんな黒ブタを?」  まあ、サウス様はあだ名をご存知でしたのね。 「確かに少しふくよかでいらっしゃいますけど、痩せすぎよりはわたくしは好きです。 それにその美しい黒髪は、とてもセクシーだと思います」  そっと手を伸ばし、サウス様の髪に触れる。サラサラと美しい、手触りの良い黒髪。  サウス様は照れたように赤くなり、視線を外されました。 「けど、俺こんな性格だから、ガッカリしただろ?」 「表裏があるのは正直驚きました。けれど本当のサウス様の姿が見れたのは、嬉しかった です」  サウス様の身体に身を寄せ、両手で彼の頬を包み込む。外れた視線を、わたくしへ 向けるように。 「サウス様こそ、わたくしの性格を知ってがっかりされたのではないですか?」 「そんな……事は……」  サウス様の瞳が所在なさげにうろつきます。  わたくしは、そっと触れるだけのキスをサウス様に落としました。 「はしたないとお思いかもしれませんが、わたくしはサウス様に触れたい。サウス様の 子を産みたいです。大丈夫です。わたくし達の娘は不幸になどなりません。させません。 わたくし達の知識と力で、全力で幸せにしましょう? 例えば貴方は残念に思うかも しれませんが、娘には違う名を付けましょう。王子の婚約者にならぬように先手を打って 別の方と婚約させておくのも手かと。婚約者がいるならば、ミルジャーナ学園が出来ても 通わせる必要はないでしょう? そうすればデイジーマリーと関わることも罪を 着せられることもないはずです」  わたくしの言葉に弾かれたようにサウス様はわたくしを見ました。 「そもそも、乙女ゲー転生もののラノベでは悪役令嬢が幸せをつかむ物語のほうが多いの です。わたくしたちの娘はきっと幸せになれますわ」  にっこりと笑ってサウス様を抱きしめますと、それはそれは強く抱きしめ返して下さい ました。

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